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フィクションランド

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愛猫と僕

投稿日時  : 2017/09/08 16:31

最新編集日時: 2017/09/13 17:53

先日、愛猫が亡くなった。癌だった。
早期発見であったが、進行を止めることができず、発見後2ヶ月でこの世を去った。

 

あれから1週間。
まだ僕は、愛猫がいなくなった現実を受け止められないでいる。

まだ前を向いて生きていけず、静かになった家の中を見渡しては
あらためて愛猫がいないことに絶望的な虚無感を覚え、その度に泣いている毎日だ。

毎日6時と18時にご飯をあげ、飲み水を取り換え、トイレを掃除し、ブラッシングを行う。
じゃらし棒で遊び、撫でたり、傍で寝たりする。
時には爪切りをしたり、シャワーを浴びさせたり、褒めたり、叱ったり…。
出掛ける前、洋服にコロコロをかけるのは当たり前。

そんな毎日を何年も繰り返してきたわけだから、
急にそういう日常を行わなくても良いと分かっても、
むしろ行わない方が辛くなるわけで…。

だから僕はこの生活リズムを崩すのが怖くて、毎日6時と18時にご飯を出している。
飲み水を換え、無駄にトイレをチェックし、無駄にじゃらし棒を振ってみる。
そして、毛が付くことのない洋服にコロコロをかけてみる。

 

そんな日々が10日間ほど続いた日のことだった。

 

ある休日、僕は自分の夕食の準備をするために台所に立った。
夕食の準備と言っても僕は料理が出来るわけではない。ただのカップラーメンだ。
お湯を入れて蓋をして、割りばしを蓋の上に乗せようとした時、
僕の足下をもふもふっと何かが通った感触を覚えた。

 

「ミースケ?」

 

思わず、僕は愛猫の名前を呼んだ。もちろん返事はない。
その直後、家のインターホンが鳴った。

ピンポーン!

「はい」

「あ、●●急便です。荷物のお届けに参りました」

「今開けますー」

 

僕宛のダンボールを持ちながら、玄関まで来た宅急便のお兄さん。
その宅急便のお兄さんが僕に荷物を渡しながら、下を向き
おかしなことを言った。

「可愛いですね」

「え?」

「じゃあ、どうもー!またお願いしまーす!!」

 

え?
どういうことだろう…。お兄さんは何を見て可愛いと言ったんだろう。
僕は男だ。宅急便のお兄さんの趣味にもよるが、明らかに僕が可愛いと言われた感じではない。

そして、玄関付近には僕は一切何も置かない主義だ。
何の置物も無いし、廊下が広がるだけ。
廊下の先にある扉は締まっているから他に何も見えないはず。

 

「ミースケ?」

 

僕はもう一度呼んだ。愛猫のトイレやご飯は廊下ではなく、扉の奥にある。

でもなぜ僕は愛猫を呼んだのか。
それは、愛猫がいつも玄関先の来客を見に来るのが癖だったからだ。

僕が来客や宅急便、出前を迎える時、いつも愛猫が一緒に来たからだ。

宅急便のお兄さんには愛猫が見えたのだろうか。
愛猫はここにいるのだろうか。

僕はそう思うと涙が止まらなくなった。

 

犬は人になつくが、猫は家になつくと言う。
もしかしたら愛猫はまだ家に居てくれているのかもしれない。

 

「ミースケ?ミースケ?」

 

僕は何度も何度も名前を呼んだ。

しかし猫の鳴き声はおろか、何の音も聞こえなかった。

その時だった。

 

ピチャ…ピチャ…

 

愛猫の飲み水のところから音がした。
それは明らかに水を飲んでいる音だった。

 

そこに愛猫がいる、僕は確信した。

 

なんだかすごく嬉しくて温かい気持ちになった。
安心感のような…ホッとした気持ちがあった。

でも、同時に同情的な気持ちというか…不安な気持ちにもなった。

 

「どうした?ミースケ。まだ家に居ていいのか?」

 

急に僕は心配になってしまった。
愛猫にとって、この家にいることが幸せなのか
もしくは、逝くべきところに逝かなくてはならないのではないか、と。

僕が前を向いていないせいで、愛猫も前を向けていないのではないか、と。

 

「分かったよ、ミースケ…。
 僕のためにもう少し居てくれないか。
 でも、もう少ししたら僕は大丈夫だから
 ミースケも逝くべきところに逝くといい。」

 

今思えば、僕は今までで最も勇気のある発言をしたと思う。

 

 

そして、愛猫が亡くなって49日目。
僕は愛猫のご飯を出すことをやめた。

 

 

なんだか遺影に写る愛猫が微笑んでいるように見えた。

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