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フィクションランド

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量産型大学生と排他的大学生のご挨拶(2限)

投稿日時  : 2017/11/12 13:55

最新編集日時: 2017/11/12 14:04

マンションの一室に、香ばしいトーストの薫りが充満していた。
13畳ほどの広々したリビングで、立己仁は朝食をとっていた。

テーブルを挟んで向かい側には、母の立己良子(たつみ りょうこ)。
その隣には、妹の立己瞳(たつみ ひとみ)が座り、一緒にトーストをかじっている。

「てか、なんで兄ちゃんはさっきからニヤニヤしてるわけ? キモさに拍車が掛かって、そのまま窓から落ちて欲しいくらいなんだけど」

現在、中学2年生の妹、瞳はゴキブリでも見るような視線を仁に送っている。
思春期真っ盛りということもあり、なるべくなら兄と食事をとりたくないらしい。
紺色のブレザーに身を包み、髪は短く、ふてくされたような表情。
机の上に置かれたスマートフォンを、逐一確認し、いじくっている。

「こら、瞳。お兄ちゃんだって、笑うことくらいあるわよ。まぁ、ちょっと下手くそな笑いではあるけど……」
「下手くそっていうか、明らかに逝っちゃってる顔だよね? なんなの? 天に召されるの?」
仁はコップに映る自分の顔を見ながら、頬を吊り上げて笑っていた。
おそらく、笑顔を作る練習中なのだろう。

昔から、親が忙しいときに瞳を世話をしていたのは仁だった。
ただ、小さなときから兄の奇行のせいで、瞳は友達からからかわれていた。
ゆえに、感謝しながらも、見ているだけでイライラしてしまうのだ。

「母よ。今日は外食してくるゆえ、夕飯はいらぬ」

真顔に戻って、仁は母親にそう告げた。

「ふーん……夕食いらないのね。わかったわ」

一旦、時間が止まり、静寂が流れる。

「「え?」」
良子と瞳は同時に、持っていたトーストを落とした。
仁を見ながら、目をパチパチさせている。

「ねぇ、瞳。今お兄ちゃんなんて言ったのかしら? よく聞こえなかったんだけど……」
「今日、夕飯いらないって……」

良子と瞳は「信じられない」といった具合に、互いの顔を見つめ合っている。
「夢……かしら?」
「うんうん、たぶんそうだって」

良子と瞳は互いの頬をつねって、夢かどうか判別しようと試みた。

「「いたーい!」」
良子と瞳の頬は赤くなり、瞳のほうは涙目になった。
向かい側で2人の様子を見守っていた仁は、冷静にツッコミを入れる。
「それは痛いであろう」

「え? 兄ちゃん誰かとご飯食べてくんの? カノジョとか?」
「あらまぁ、やっと仁にも春が来たのねぇ」

「春なら毎年、来ているであろう」
「いや、季節の話じゃないから……」

会話の噛みあわない家族である。

「で、実際誰とご飯食べてくんの?」
「サークルである!」
「サークル? 兄ちゃんいつの間に入ったの?」
「昨日だ!」
「あら、女の子じゃないのは残念だけど、何のサークルなのかしら?」

仁は椅子の上に立ち上がり、胸に手を当てながら、誇らしげに言い放った。
「聞いて驚くなよ! 我は人類学研究会という高貴なサークルに勧誘され、昨日入会したのだ!」
「いや、驚く要素が何1つもないんだけど……。にしても、驚きだわぁ。あの友達いない歴=年齢の兄ちゃんがねぇ」
「そうね。昨日まで、カラスと一緒に帰るどころか、毎日5時前には家に帰ってたあのお兄ちゃんがね」
仁は胸を張り、満面の笑みを浮かべる。
「褒め称えるがよい!」
「てか、いつまで立ってんの兄ちゃん? 見下ろされんのムカつくんだけど」
「これは失敬。食事中であったな」
仁は再び椅子に腰かけた。

良子は頬に手を当てて、心配げに仁を覗き見る。
「でも、大丈夫かしら……。その文化なんとかって、変なサークルじゃないの?」
「そうだよ! 兄ちゃんなんて宗教勧誘されるしか能がないんだからさ、怪しいサークルの可能性だってあるじゃん? 盗んだバイクで走り出す的なのいるじゃん?」
「心配無用。無免許ゆえ!」
「あ、そっか」
「とにかく、普通にするのよ?」
「そうだね、兄ちゃんは変の代名詞みたいなもんだからね、変の大魔神みたいなもんだからね。とにかく、自然な笑顔だよ。大抵のやつらは笑っときゃ、なんとかなるからね。ほら、都知事選に出てたあの人みたいに、すまーいるってね」

「我が妹よ」
仁は瞳を見つめた。

「なんだ? 我が兄よ」
「前から思っていたが、おぬし、我のこと馬鹿にしてないか?」
「馬鹿にしてなんかないって、ただ……」
「ただ?」

瞳は俯いてから、最上の笑顔を仁に向けた。
「蔑んでるだけ」

「もっと、酷いではないか!!」

アットホームな家族に見守られ、仁は決戦の地、居酒屋へ出発するのであった。

(つづく)

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