僕は40代の男性店員に異物混入発見に至るまでの現象を細かく伝えた。
すると「申し訳ございません。すぐに作り直します」と店員。
しかし僕たちは急いでいる。
「いや、作り直すって…また同じくらい時間かかるんですよね?」と問いかけた。
男性店員は息を呑み込むかのように頷きながら「そうなります」と言った。
「いや、時間ないので急ぎで作れる他のもの無いですか?嫌ですよ。また何十分も待つのは」
「そうなりますと…うーん…カレーでも作りましょうか」と店員。
カレー?カレーだと早いのか?
タンシチューとカレーは同じように煮込むはずじゃないのか?カレーだけレトルトなのか?
そう思いながら僕は雅紀と加奈子の残りの食事量を覗き込んだ。
彼らの器にはもう半分程度しか残っていない。
「いや、もう良いです!要りません。ダイエットだと思ってやめておきます」と僕は断った。
「申し訳ございません。では、こちらは無しということにさせていただきます。」
「そうしてください。」
僕は3杯目のホットコーヒーを飲みながら、雅紀と加奈子の食事を眺めていた。
まるで物乞いのような眼差しで嫌がらせかと思うくらい覗き込む僕。
それを見て怪訝そうな表情をしながら食べる加奈子。
「ソーセージ…1本食べる?」
「ありがとう。大丈夫。要らない」
僕は何となく複雑な思いだった。
① そんなにお腹が空いていなかった。
② 店に入ったら3人の中で一番重たいタンシチューを注文した。
③ タンシチューには異物が入っていて3分の1も食べなかった。
この「①食べないモード」「②食べるモード」「③食べないモード」の繰り返しによって
煮え切らない食欲とやるせないイライラが溜まってきた。
そして意地悪な感覚に襲われ、その僕の矛先が雅紀と加奈子に向かっていった。
「君たち2人の食事の中にも、あの針金みたいなのが入ってたりして…」
僕のこの一言は2人の食欲を抑えるには充分すぎる程の発言だった。
「やめてよ…」
そう言いながらも、途端に探るように前歯だけで食事し始める加奈子。
そしてフォークで何度もマカロニを転がしながら、注意深くグラタンを掬う雅紀。
「だって、これで2人にもあの針金みたいなのが入っていたらタダになるんだよ」
僕は畳みかけるように話を続けた。
「なんだったんだろう…カリッというかゴリッというか…あんなステンレスみたいなのをもし飲み込んでいたら…ゾッとするね。」
「鉄分は充分摂れそうだけど(笑)」
「しかし、アレはなんだったんだろう…。タンシチューだから入っていたというよりは、このお店そのものにあった何かがたまたまタンシチューに入っただけだと思うんだよな…」
話せば話す程、2人の食事ペースは下がった。そして、ついに雅紀はフォークを置いた。
「あれ?どうしたの?食べないの?」と僕。
「いや、食べるさ。食べるけど…」と言う雅紀を横目に、相変わらず前歯で食事をする加奈子。
彼らの食事ペースは徐々に徐々に下がった。
加奈子はテーブルに肘をつきながらフォークでソーセージを細かく切り、刺したくも無さそうな手つきでソーセージを刺し、食べたくも無さそうに口に運んでいる。
雅紀は、中に異物が入っていないか確認するようにマカロニの穴にフォークの先を通し、全てのフォークの先にそれぞれマカロニが通ったところで、仕方なしに口に運んでいる。
僕は笑いながら彼らを見ていた。
そして会計時。
最終的にはタンシチュー代とドリンクバー代が無料になったが、それでも2,500円かかった。そう、意外と高いお店だったのだ。
おそらくタンシチューとドリンクバーを合わせたら5,000円を越えていただろう。
(僕だけ食べてないのなら、せめて彼らには「食べた気がしない」状況に…)
という僕の意地悪な作戦は功を奏し、3人共複雑な顔をしながら会計を済ませた。
ただただ店員だけは申し訳なさそうな顔で「申し訳ございませんでした」と何度も謝っていた。
そして結局、僕たちは22時にお店を出た(笑)。
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