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霊験あらたかなお守り(後編)

投稿日時  : 2017/09/19 15:21

最新編集日時: 2017/09/20 00:59

オークションサイトで偶然見つけた某神社のお守り。
それを手にしてから1週間くらいは何も起こらなかったが、その後僕の生活が少しずつ変わっていった。

 

まず最初に、僕は夢を見た。
ここ最近夢なんて一切見ていなかった。たとえ夢を見ていたとしても朝目覚めたら忘れている。
とにかくそんな程度で、夢らしい夢なんて見ていなかった。
でも、その時に見た夢は今でも鮮明に覚えているから不思議だ。

 

――それは僕の心臓が真っ白に光った夢だった。
夢の中で寝ている僕の左胸が真っ白に大きく光って、それで眩しすぎて目が覚めたという夢だった。

左胸の奥から光っていたので、僕はそれがすぐに心臓だと分かった。
でも苦しくないし、むしろ心地良いような…とても不思議な夢だった。

 

そして、その夢を見てからおかしなことが起きはじめたのだ。

 

家の中で夜中ラップ音が響くようになった。家の中をミシッ、ミシッと誰かが歩く音。
家では今彼女と僕の2人暮らし。夜中なので当然彼女は僕の横で寝ている。
だから誰かが歩く音はするはずもなかった。実際、彼女はこの音を聞いたこともないそうだ。

あと、家のトイレで突然水が流れることもあった。
我が家のトイレは無人状態でも定期的に水洗浄するような機能はついていない。

そう、まるで家の中にもう1人誰かがいるかのような体験をするようになったのだ。

 

さらに、こういった日常の違和感は家の中だけにとどまらなくなっていった。

仕事で取引先に訪問した際、担当のお客様から
「高橋君、いつも何度もわざわざ来てくれてありがとうね」と言われた。
僕はその取引先に関して、1ヶ月に1回行くルーチン訪問しかしていなかったし、
今までそんなことを言われたこともなかった。

さらに帰宅する際、たまには良いかなと思って彼女にケーキを買って帰ったことがある。
でも、その時彼女からびっくりすることを言われた。
「嬉しいけど、そんなにしょっちゅう甘いものを買ってこなくて良いよ。私太っちゃう(笑)。」

様々な場面において、まるでつい先日も僕が同じことをしたかのような反応が起こっていたのだ。
どうもそれは周囲の人間に既視感を与えているような感覚だった。

僕はすごく怖くなっていった。
何かのミステリー本で読んだことがある。
自分以外の自分の存在を感じるようになり、ついには自分を乗っ取られてしまうという怖い話。

僕はそうなるのが恐くて、えも言われぬ焦燥感に駆られた。
しかし結局どうすることもできず、僕が取った行動は
「そんな、大袈裟ですよ。僕はそんなデキた人間じゃありません。
 でもお褒めの言葉に見合うような人間になれるよう努力します。」
というコミュニケーションだった。そして僕が僕であることを相手に印象付けようと必死に努力した。

だが、むしろ僕のこの姿勢は相手には謙虚に映るようになり
意図せず、円滑なコミュニケーションが取れるようになっていった。

 

―あれから3ヶ月程経っただろうか。

 

いつの間にか、もう周囲の人間に僕の言動の既視感を与えることは無くなったようだ。
でも、3ヶ月間で僕が行っていた言動は身に沁みついてしまっており、
良くも悪くも僕の謙虚な姿勢は変わらなかった。

それから日常がどんどん好転していった。
仕事においては、僕の謙虚さが社内外でも評判になり
僕のプロジェクトが採用され、新しい事業が成功しようとしていた。
私生活でも友人や家族と頻繁にコミュニケーションを取るようになり
結果的にウィークエンドは忙しく充実していった。

 

今、僕には好転した理由が理解できる。
今までの僕には謙虚さが足りなくて、そのせいでコミュニケーションに歪みが生じ
何もかも上手くいかないと自己暗示的に気に病んでいただけだったのだ。

つまり、僕が感じていた虚無感を無くす答えは僕自身の中にあったのだ。
このお守りは、それを気付かせるきっかけをくれたのだ、と―。

 

あれから今、僕はすごく充実した毎日を過ごしている。
縁と富、そして幸せな生活をもたらしてくれたこのお守りにとても感謝している。

しかしながら実は今、僕はこのお守りをまたオークションサイトに出品している。
感謝してもしきれないし、大事に持っておこうかとも考えたが、
このお守りはもっと色々な人に役立つべきだと、妙な使命感に燃えたからだ。

 

現在、1名が入札中である。

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