私が高校生だった頃の話。
父と母は共働きのため、毎日忙しそうにしている。
私は好きなスポーツがあり、TVがあり、漫画がありと
学生の性分である勉強をこなしながら、友人と趣味を堪能していたが、
母は仕事から帰って来ると、夕飯を作り、掃除をしたりと慌ただしくしていた。
母の最近の楽しみは何かあるのかと疑問に思った。
料理も特別得意ではない。
手作りのハンバーグやロールキャベツは食べたことがない。
裁縫も得意では無い。
雑巾を手で縫った時は、履いているズボンの布も巻き込み縫っていた。
好きな芸能人がいる訳でもなく、園芸、読書も趣味というほどでは無さそうだ。
唯一、毎晩夕飯を作りながら一杯お酒を嗜んでいる時は幸せそうだった。
時折一緒に行く温泉も、ほっとする気持ちよさそうな顔を見ると好きなように思えた。
私は聞いてみた。
『お母さんは、読書だったり、裁縫だったり、得意なこととか、好きな趣味は無いの?』
『ん~特にないのだけどね・・・子育てかな?』
『えっ・・・!?そっかぁ・・・』
意外な答えが返ってきた。
私は照れ臭くなり、それ以上は聞き返さなかった。
母は良く私のことを「自分の分身」だと冗談混じりによく話す。
1人の娘として私を好きでいてくれて、心配で、愛情を注いでくれているのだと思っている。
私は時に厳しくされながらも、自由奔放にわがままに育ってしまっているけれど・・・。
『母の愛情は偉大』とはいうけれど、私もいざ自分の家庭や子供を持った時に、
母のように考えられる日は来るのだろうか。
***
私は学生時代の何気ない家族の日常会話をずっと覚えていたが、
母に話すことは無く、胸に秘めていた。
“母の心意気を私も受け継いで”と思ったのは、それから数年後のことであった-
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