彼女も僕も映画が好きだ。
昔の僕は「デートで映画なんて観たら、せっかく一緒にいても2人の間に空白の2時間が生じてしまうではないか」という考えだった。それだったらボウリングでもカラオケでもビリヤードでもダーツでも買い物でも、2人で話していられる時間を作った方が有効的だと思っていた。
しかし当時、彼女に「違うよ。同じ時間を過ごしているのだから空白なんてことはないよ。それどころか誰にも邪魔されずに2人で同じものを観ていられる大切な時間なんだよ」と諭され、一緒に映画館まで足を運んだことがあった。結果、その後の食事中でもお互いの感想や思想を言い合ったりして、とても有意義になることだと分かった。それから僕は映画デートに対する考えを改めるようになったのだ。
さて、ちまたでは映画デートあるあるが結構存在するようなので紹介したい。
● 2人で手を握っていられるのは1時間15分まで。それ以降は展開で汗ばみ、映画に集中したいことからも手を放す。
● 男性の方が寝てしまって…という話をよく聞くが、実際には女性の方が寝ているケースが多い。周りからは髪の毛で見えないだけ。
● ポップコーンは大抵食べきれない。
● 上映前に他の映画の予告編を観ながら「次これ来たいよね」等とコソコソ話すが、上映後には忘れてる。
● 上映中遅れて入ってくる客に限ってその後の物音までうるさい。
● 帰り際に混み合うのが嫌で、エンドロール中に席を立つ。後日、エンドロール後に続きのシーンがあったことを知る。
しかし、彼女も僕も最近は仕事が忙しく、まともに2人の時間が取れなかったので、そんな中たまに会っても映画館に行こうという雰囲気にはならず…。最近ようやく余裕が出来てきたので先日久しぶりに映画を観に行った。やはり映画鑑賞は心身共に落ち着いている時に限る。今回は僕が観る映画を決められる番だったので、迷わず大好きなハリウッドアクション映画をチョイスした。彼女もアクション系は嫌いじゃないので、鑑賞作品はあっさり決まった。
映画館に入ると、ポップコーンとコーラを2つ頼んだ。もちろん上映中のことを考えてのことだったのだが、座席につくや否や僕はポップコーンを食べ続けた。負けじと彼女も食べ続ける。笑いながら競争していた。予告編が始まる前なのに、すでに半分以上減ってしまったので「このままだとすぐ無くなっちゃうね」と彼女と話し、一旦ポップコーンの食べ合いは休戦した。そして、僕はポップコーンを左手に抱え込み、右手で彼女の手を握った。久しぶりの映画デート。彼女も強く握り返してくれ、お互い顔を合わせながら微笑み合った。
上映中に流れた予告編。その中で、僕があまり好きじゃない邦画の恋愛映画が流れた。彼女が横から小声で言う。「私これ観たい!次はこの映画観ようね」「はいはい」お互い笑いながら耳元で会話した。
それから、いざ作品が始まるぞという時、遅れて中年男性が入場してきた。暗闇ながら僕は露骨に怪訝な顔つきになったが、まぁギリギリ間に合ったと解釈しよう。しかしその中年男性、席に着くなりビニール袋から缶ビールを取り出して呑み始めた。ビニール袋のガサガサという音。タブトップを開けるカチッ!プシュ!という音、全てが不快に感じた。何より「持ち込みかい!」と怒鳴りたくなった。そんなに広くない劇場だったので、恐らくその場にいた全員がそう思ったにちがいない。
それから、作品も終盤に差し掛かった。
アクション映画なので、とにかくハラハラドキドキの展開。手に汗握るとはこのことだろう。僕はつい汗ばんだ右手を彼女の手から離した。しかし、離した途端、彼女の手がそのまま下にズレ落ちたのだ。僕はすぐに彼女の顔を覗き込んだ。髪の毛で顔は隠れていたが彼女は明らかに船を漕いでいた。
結局、映画はハッピーエンドとなり、そのままエンドロールが流れた。僕は彼女の肩を小さく叩くと、彼女はびっくりしたかのような反応でこちらを見た。「混むから出よっか?」という僕の小声に合わせて、彼女はいそいそとジャケットを抱え込み、そのまま席を立った。結局、食べきれなかった残りのポップコーンは捨てることに…。
映画館を出た後、彼女とカフェに入り「寝てたでしょ?」「寝てないよ」なんて話をしながら、観た作品の世間の反応を知りたくて、携帯で「ネタバレ注意」の書き込みに目を通していた。すると「エンドロール後の最後のシーンは泣けた」という書き込みが多数…僕らはエンドロール後のシーンを見逃したまま退出してしまったようだ…。とても悔やまれる。
さて、次は彼女が観に行く映画を決める番。「今度何観たいの?」と僕。彼女は「次もアクション系で良いよ」と言ってくれた。
というわけで、よくよく考えてみると…映画デートあるあるの全てを網羅した鑑賞だった。
コメントを書く