俺は都内西多摩に住む単車(バイク)乗り。愛車はRZ。250ccの車体に350ccエンジンを載せ替え、フロントブレーキをロッキードのダブルディスクに改造。
ピーキーな2ストが奏でる排気音は高く、クロスチャンバーから出される煙は周囲を一面灰色に変える。俺の自慢の単車だ。
地元じゃあ「産業道路のRZ乗り」として、多少は顔を刺される存在でもある。
そんな俺にもバイク仲間が20人ほどいる。
頭の切れるメカニック、ヨンフォアの英人。
優しく周りを支えるペケジェーの村尾。
柔道家で茨城出身の熱い後輩、バブⅡの舟木。
地元の族事情に詳しいゼファーのナベ。
マイペースなフェックスのサコ。
見た目は強そうだが、実際口だけのインパルスの良太。
こんなやつらとチームを組んで走っていた。チーム名は野生華(Wild Flower)。
他の奴らは俺らのことをゾッキーだと思っていたようだが、俺らは暴走族のようなローリングや逆走はしない。
ドーグも持たなければ総長だの特攻隊長だのもいない。
喧嘩を売られりゃ買うが、揃いの服を持っているわけでもない、
あくまでも平和主義なチームだ。特にリーダーもいなかったが、俺はタメからも後輩からも慕われる存在だった。
ある日、俺は単車のパーツを探しに八王子に行くことになった。
しかし、八王子へ行くのに単車で行くのはマズい。見ない顔の族車乗りだと思われれば、たちまち囲まれて厄介なことになる。
だから俺は電車で行くことにした。一応、後輩の舟木に付き合ってもらった。熱い柔道家の舟木。
しかし、こいつを連れに選んだのが俺のそもそものミスだった。
八王子のバイク屋で単車のパーツをゲットできた俺は、気分も上がり、舟木と居酒屋で呑むことにした。
欲しかったパーツが手に入った喜びから酒も進み、すっかり陽気になった俺たちはフラフラと八王子の繁華街をふざけながら歩いていた。
すると、舟木とじゃれ合っていた俺の肘が通行人である誰かに当たったみたいだった。
「…ってぇ。おいコラ!」
そう言われた俺が振り返ると、イキのいい兄ちゃんが5人いるではないか。
その中でも赤いキャップに黒いダウン、ピアスだらけの顔をしたヤツが、左腕を押さえている。
俺は面倒が嫌だったし、今日は気分が良い。揉め事はしたくなかったのですぐに謝った。
「あ、ごめんなさい。本当。」
俺なりに精一杯低姿勢だったつもりだ。
すると、赤キャップが一言。
「気をつけろ、カスが!」
啖呵を切られてもとにかく穏便に帰りたかった俺はすぐに兄ちゃん達から背を向け、歩き出した。
すると、背後から
「なんだとテメェ…」
という声。嫌な予感ながら振り返ると、舟木が兄ちゃん達に向かっているではないか。
「おい、舟木やめ…」
俺が声をかけるのを振り払うかのように舟木は兄ちゃん達に向かっていき、そこから喧嘩が始まってしまった。
「おぃ!バカ!」
俺が舟木にそう言ってももう遅い。舟木は兄ちゃん達2人を相手に激しく揉み合っていた。
ん?2人…。
5引く2は…
そう、舟木は5人中2人に向かって行ったのだ。
当然残りの3人は俺を見て向かってくる。
赤キャップを筆頭に3人が一斉に俺を襲う。
「テメェもやんのかぁ!!」
俺はハナから戦意が無いわけで…スイッチが入らないまま3人にボコボコにされた。
どれだけ殴られ蹴られただろう。
アバラの痛みで気がつくと、もう5人はいなくなっていた。舟木は俺の2,3メートル先でボソボソと暴言を吐きながらも、疲れ果てて座り込んでいた。
アバラが痛い。
こりゃあヤラれたな、と感じた。
結局、その日は舟木と寄り添うように始発で帰った。
仲間意識が強いのも嬉しいが、熱すぎる後輩もなんだか考えものだと強く感じた日だった。
後日、俺が舟木に説教と鉄拳制裁を散々したのは言うまでもない。
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