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踊る阿呆に踊らす阿呆

著者:吉田 健康

投稿日時  : 2017/11/01 03:38

最新編集日時: 2017/11/01 03:38

私はこれまでブラック企業がIPOを目指し、ホワイト企業になろうとして失敗してきた経営者をたくさん見てきた。

パワハラ、セクハラが横行し、時間外労働なんて当たり前。ノミュニケーションと迎合主義が跋扈し、馬車馬のように現場が働くことで幻想的に売上が嵩んでいく。

その結果、経営者が「うちの会社は上場出来るのではないか」と色気を出し、勘違いを覆い隠すほどの野心が溢れた結果、背伸びしすぎていることに気付かず、最終的に右往左往しながら上場が見送られるケースも珍しくない。

たとえ運良く上場できたところで、上向く傾向も見られず、株価は悪化し、無駄にプレスリリースを打つことで、首の皮一枚の経営が続くことになったりもする。

 

そして、そういう経営者に限って、(監査から経営者のくせに現場を知らなすぎる言われているせいか)急に何日もかけて現場全員と食事をし始める。手っ取り早く現場の意見と空気を把握した気になりたいからだ。

現場にはそんな状況が透け透けなので、当然冷ややかに経営者と接する。すると経営者は「俺の苦労も知らないで」とボヤく。

私はそんなダメな経営と会社をここ10年だけでも3社くらい見てきた。

 

要するに経営者が傲慢で自分勝手でプライドが高く、野心家過ぎるため、自信が会社のスケールを上回っていることに気付けないのだ。

結果、監査と現場の板挟みに遭い、無駄に落ち込む。そんなノイローゼになっている経営者を見ると滑稽に思えてくるものだ。

 

ひとつ面白い例を紹介しよう。
あくまでもこれはフィクションだから、イメージだけしてみてほしい。

 

いつまでも遅い時間までダラダラ仕事をすることで、仕事をした気になっている社員ばかりの会社があった。しかし、ダラダラといっても8時間ぴったり集中して働くよりは生産性が高い。なぜなら残業代も払われておらず、出社時間は決まっているものの裁量労働制という、極めて都合の良い労務状態だったからだ。現場は、こんな状態でも焦ることなくマイペースで仕事が出来るものだから精神的には落ち着いていた。まぁ、既にワーカホリック状態の現場社員ばかりだ。

結果、微妙に売上が向上し、ついには経営者がIPOという色気を持ち始める。

そして上場準備のため監査が入り、労務状態を顧みた結果、残業代を払わなくてはならない経営体制だということを知らされる。

当然、社員に早く帰るよう促す。「残業代を払いたくないから早く帰れ!」とも言えず、「個人の効率化と能力向上のために決められた時間内で生産できるようにしてみなさい」という伝達方法になる。

今までダラダラ仕事をしていた社畜な現場社員からすれば、そんな急に集中して生産するなんて舵は切れない。今まで積み上げてきた生産ペースを急速に向上させることも出来ず、それでも早く帰宅しなければならないため、結果として生産が落ちる。

生産が落ちることで売上も利益も下がる。

利益を下げないために、中期的な展望都合という名目から人材採用を活性化させる。足りなければ増やせば良いという、いわゆるただの足し算の理論になってしまう。すると、もちろん大きく原価が膨らむ。

売上も原価も下がっているところに原価が嵩むわけだから、中期的展望とはいえ、短期的に乗り切ることができないのではないかと急に焦りだす。

焦った経営者は慌てて採用を中止する。

これ以上人員が増加しないと分かった現場では、早く帰らなければならないのに生産ペースが上がらないので、終わることのない心理的悪循環に陥る。そして社員は心身共に疲弊し続ける。

結果、会社が建て直されることなく下降していく。

 

いかがだろう。
第3者から見れば手に取るように分かる当たり前のプロセスでも、当事者からすれば(それがたとえ経営者という優れているはずの人間でも)気付けないものなのだ。

本当に笑える話だ。

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