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量産型大学生と排他的大学生のご挨拶(5限)最終回

投稿日時  : 2017/11/25 23:36

最新編集日時: 2017/11/25 23:54

   1

春先の桜が舞う暖かな季節だというのに、店の外には妙に冷たい風が吹いていた。
4年生の坂下が怒りを爆発させて帰った後、数分後に仁も店を後にしていた。
自分が飲み会の空気をぶち壊したことは理解していたし、
自分がこのサークルに向いていないことにようやく気が付いたのだから、
帰る以外に仁に選択肢は用意されていなかったのだ。

残されたメンバーで気を取り直して、宴会は続けられており、
楽し気に話している声が、店の外にいる仁の元まで響いてきた。

「……なかなか、うまくはいかぬな」

店に背を向けて歩き出そうとした。
すると、聞き覚えのある麗しい声が、その背中を呼び止めた。

「立己くん!」
それは、愛里の声だった。
走ってきたのか、膝に手をついて息を切らしていた。

「あの……立己くん。ありがとう。助けてくれたんだよね?」
仁は何も答えない。
「坂下先輩って、本当は良い人なんだけどね。お酒が入るとちょっと、あんな感じになっちゃって、でも悪い人じゃないんだよ?」
この期に及んで、愛里は坂下をかばう。
これは根っからの正義感によるものなのか、本質的なお人よしからくるものなのか、
どちらでもないことを、仁は気が付いていた。

「……愛里殿、ひとつだけ言わせていただきたいことがある」
仁は振り返らないまま、情感たっぷりに間をとってから口を開いた。

「愛里殿は、自分が好きか?」
「え? どうしたの? 急に……」
「愛里殿は、誰からも好かれるように振舞っている。だが結局は、好かれている自分を好きになれなければ、それにも意味はない。愛里殿は、自分が好きか?」
ピコ太郎のコスプレをして、顔に青い斑点を浮かべた大学生が、しっとりとした口調で言い放った。

「それって……どういう……」

明らかに笑える状況なのに、愛里は自分の胸に手を当てていた。
仁の言葉はすんなりと愛里の胸の奥へ入り、心の中でその言葉の意味を理解させてしまったのだ。

「ではな、愛里殿」

ひと仕事終えたかのように仁は言って、
「さらばだ!」
新宿の路地裏へ、金色のスカーフをはためかせながら消えていった。

   2

ここが新宿なのか、だとしたら何丁目なのか、路地裏を曲がりに曲がった仁は、行く場所を見失っていた。
というか、行く場所など特になかった。
彼は叫びたかったのだ。
この不運と自分の馬鹿さ加減を、慟哭にして消化したかったのだ。

猫が数匹通るので精一杯であろう細い路地裏で仁は、うなだれていた。
飲食店裏の通用口に置かれたポリバケツ。
その中に顔を突っ込んで、仁は泣き叫んでいた。

「うおー!!! また、やってしまったー!!! なぜ黙っていられなかったのだー!!! なぜもっとうまく言えなかったのだー!!!」

後悔だった。
仁はいわゆる思ったことを言ってしまうタイプの人間。
そのせいで、これまで幾度となく人から誤解を受け、嫌われていた。
大学こそはと、一念発起したはずなのだが、気合に実態が伴うとは限らない。
彼はどうやら、運に見放されていたようだ。

「青春のバカヤロー!!!」

鼻水を垂らしながら、ポリバケツに声が反響した。
ポリバケツどころか、路地裏全体に声が響き渡り、野良猫やらネズミやらが慌てて逃げて行った。

もう一度深呼吸をして、何かを叫ぼうとした仁だったが、
「ケバブ!!!」
ポリバケツに張り付いていたナメクジが、顔に付いているのに気づき、
顔を振り乱しながら、ポリバケツを投げ捨てた。

ゴミ袋に寄りかかり、ビルに挟まれた狭い夜空を見上げた。
細長いキャンバスには、不完全に半分だけ月が覗いていた。

「いや、馬鹿野郎はこの我か……」

立己仁、大学デビュー失敗。
その文字が仁の頭の中にまるで、ニュース速報のように流れた。

   3

5月中旬。
「だははははは!!!!!」
その日、仁は大学のキャンパスを走り回っていた。
喜びを表現するための全力ダッシュだ。

仁は愛里に手を振ってもらったのだ。
それが嬉しくて、手を振り返す前に、走り出してしまった次第である。
しかも、雨の中である。

走り回っていた時、仁は奇妙な女を見つけた。
図書館裏の茂み。
そこに女はしゃがみ込み、猫に傘をかざしていた。
真っ白なワンピース。
地面に届きそうなほど長い黒髪。
びしょ濡れの背中。

仁は恐る恐る女に近づいた。
「おぬし、そんなところにいては風邪をひくであろう」
まぁ、仁もびしょ濡れなわけだが……
女は何も答えない。

「そうか、替えの傘がないのだな。であれば、我が生協にて買ってくるが?」
と、またもや走り出そうとした時、雨が止み、雲間から光が差し込んだ。

女は立ち上がり、不思議そうに仁の顔を覗き込んだ。

「あなた……どこかで」
「我か?」

女は歩き出し、仁に背中を向けたまま、小さく口を開いた。

「雨男は知っているけれど、まさか晴男もいたなんてね」
そう言って、謎の女は歩いて行った。

これが、立己仁と涼志香志世(すずしか しよ)の出会いだった。

(完?)

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みんなの感想(3件)

今回もご覧いただき、ありがとうございました。
最後に出てきた涼詩香志世(すずしか しよ)って誰なの?
と思った方は、
https://fiction.land/sad/post_776
こちらのURLをご覧ください。
彼女をメインキャラにした作品ですので、上記の話もぜひよろしくお願いいたします。

    物語偏愛者さんへの返信

    あ、涼志香の字が間違っていましたね。
    「詩」ではなく、「志」が正解です。
    失礼しました。

    ちなみに、続編を作るかは思案中でございます。

おもろいよん!濃いキャラ同士の化学反応が見ものだけど...ww

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