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無言の救世主

著者:ゆめか*

投稿日時  : 2017/10/23 02:24

最新編集日時: 2017/10/23 02:24

私は証券会社で働くOLだ。
もう30歳手前になるが、仕事はやりがいがあり楽しくバリバリと働いている。

今日もグレーのストライプのパンツスーツを着こなし、
アイロンをかけた長いストレートヘアーをなびかせながら電車に乗り込む。

現在は吉祥寺に住んでおり、職場は新宿にあるため20分ほどの通勤時間だ。

しかし、今日はなんだか眠いぞ。
昨夜、夜更かしして映画を観ていたせいであろうか。

座席は満員であったため、つり革を掴み、少し体を預けて目を閉じる。

”中野ー 中野ー お出口は右側ですー ”

中野に到着した。
「後5分だけ」と目をこすっていると、左の肩をトントンと2回叩かれた。

うっすら目を開けて肩越しに振り向くと、
サラリーマンの男性が私の目を見ながら、無言で2回だけ頷いた。

そのまま男性は、中野駅が職場であるのか駅のホームに降りて行ってしまった。

(何だ?何だ?何が用だったんだ?新手のナンパか!?)

電車が発車しても、私はしばらくうとうとと考えていたが、
思わず「はっ!」として、自分のスーツのズボンを見るとチャックが開いたままだった。

私は肩にかけていたカバンで慌ててズボンを隠す。

あの男性は、多くの人がいる電車の中で、無言で2度頷き
「チャックが開いている」というサインを出してくれたのだと知り、とても恥ずかしくなった。
気付いてなければ、おそらく次にトイレに行くまでは醜態を晒したままだった。

このご時世、電車の中で男性が女性に対して
『ズボンのチャックが開いてますよ』と声をかければ事件、俗に言う「事案」になりかねない。

そのような中で男性は、見知らぬ私に声をかけるリスクを知った上で、
果たして私が開いているチャックに気付くかも分からないという状況で、
可能性にかけてサインを送ってくれたのだ。

その親切心に感動した。
私にとって男性は救世主になった。

***

反対のパターンを考えた。
私が男性のズボンのチャックが開いていることに気付いた時、
教えることができるだろうか。

同性であれば声をかけてあげられるかもしれないが、異性であったら・・・

今までの私であったら、本人がその内に気付くだろうと、
きっと気づかぬ振りをしてしまうだろう。

しかし、チャックが開いていた張本人(私)はサインを送って貰えて非常に助かったという実績がある。

多くの人がいる電車の中で、直接指摘することは辱めが過ぎる。
他人にいきなり耳打ちするのも嫌がる人はいるであろう。

そうなると、やはり男性が行ってくれたサインが最善の策なのだと改めて気付く。

今後、私にも万が一そのような機会があればサインを出してあげようと思った。

私が実際にそのサインを出したのは、この事件から半年が経過した頃だった。
しかし、その男性が誰かと同じように助けられたかは私は知らない。

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