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フィクションランド

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叶わない恋は 意味の無い 恋なのか

著者:ゆめか*

投稿日時  : 2017/09/10 22:27

最新編集日時: 2017/09/13 17:53

僕には好きな人がいる -

2月末、志望校の大学に無事に合格し、
僕の学校生活は、後は卒業式を待つだけだ。

ただ一つの心残りを除いては・・・

今日も僕は学校に来ている。
図書室に向かう道を遠回りしながらゆっくり歩いていると、僕が探していた人を見つけた。

白いブラウスに長い薄紫のスカート。
幾つかの資料を抱えて、これから職員室に戻るのであろう。
その人は僕のクラスの国語の授業を担当してくれていた女の先生だった。

廊下を歩いている僕に気付くといつものように声をかけてきた。

「広瀬くん、おはよう。今日も図書室で勉強の予定かな。」

白い肌に大きな瞳、艶やかな長い髪。
髪を耳にかけながら話すしぐさは、正直見とれずにはいられない。

『春香先生・・・おはようございます・・・』

僕は、恥ずかしさを隠すように半笑いであいさつを返す。
すると先生は僕を少し覗き込むようにして

「今日は少し元気がないんじゃない。疲れてるのかな。無理しないようにね。」

そう声をかけると用事のある方向に行ってしまった。
透き通るような声も好きだった。僕はその背中をじっと見つめる。

明るく授業をする姿。
質問をすると、真っ直ぐ目を見て理解できるまで丁寧に教えてくれる優しい所。
先生のことが、いつのまにか人として好きになっていた。
僕が志望校に合格した時は、「本当によく頑張ったね」と背中をポンと叩きながら褒めてくれた。
「先生」と「生徒」
ただそれだけ、それだけの関係。

もう、卒業が近づいている。
クラスメイトや友人との思い出も沢山あるが、その中で先生との思い出も
僕にとっては特別であり、自分の気持ちを伝えるべきか迷っていた。

先生と生徒という関係性がある以上、僕が先生の恋人になることは難しいことは分かっている。

付き合いたいという思いよりも、自分の気持ちを伝えなければ、
これからも先生を思い後悔するのではないかと考えていた。
しかし、先生は僕の気持ちを聞いて困るのではないだろうか。

夕方まで考え事をしながら勉強した僕は、帰りに職員室を覗いた。
先生が1人で残り事務作業をしているようだった。

今が気持ちを伝えるチャンスなのではないか。
咄嗟の考えであったが、職員室のドアに手を掛けた。

『失礼します。』

僕は先生のデスクにゆっくり近づいていく。

「あら。お疲れ様。どうしたの。」

『先生に用事があって・・・』

「何かな。」

『ずっと好きでした。』

先生は一瞬びっくりして大きく目を見開いたが、その後真剣な表情で僕を見つめた。
僕は言葉を続けた。

『今までたくさんお世話になりましたが、先生の優しい所や笑顔にとても惹かれていました・・・』

先生にとって、僕が赴任した高校の生徒の内の1人で、それ以上に何の思いも無いことは分かっている。

『先生のことが・・・ずっと好きで・・・』

やっと告白できて後悔は無いはずなのに、涙が頬を伝っていた。

『好きで・・・』

もうそれしか言葉が出てこない。

先生の何が好きなのか、全てが好きなのか、『まだ』高校生でいる僕には言葉でうまく説明ができなかった。

『卒業する前に、どうしても伝えたくて・・・』

僕は気持ちを伝え終わると、先生はゆっくり話してくれた。

「広瀬君の気持ち、私に伝えてくれてありがとう。私を好きになってくれてありがとう。
 でも私は、卒業しても一応広瀬君の先生だからね・・・頑張る姿をこれからもずっと応援していたいな。」

先生は優しく笑っていた。

先生としての役割がある以上、何があっても僕を恋人対象としても見てくれないことも分かっていたのに、
”僕を好きになってほしい”という考えは無かったはずなのに、なぜか涙が止まらない。

僕は先生の顔をもう一度見たくとも、泣き顔を上げることができず俯いていた。

「広瀬君は、これから大学に入学して、想像もできないような素敵な出会いがたくさんあるでしょう。
 出会いは人だけではないよ。環境、学びたいこと、夢・・・色々ね。 
 今はまだ予想もつかないような新しい出会い。考えるとワクワクしてこない?」

先生は僕のことを心から応援してくれている。
そして先生はここで僕が「先生でなければ嫌だ」と言わないこともきっと分かっているだろう。

この日話している間、先生は僕を抱きしめることも、手を握ることも、僕に触れることさえしなかった。
つまり、先生にとって僕は「一人の生徒」そういうことだった。

3月の卒業式。先生は、変わらない笑顔で僕を送り出してくれた。

僕はこれからも、先生に恋をしていた気持ちを忘れないと思う。
ただ、新しい出会いの中で、また好きと言える人と出会うことができるのだろうか考えると、
前を向いて春を迎えられそうな気がした。

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