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フィクションランド

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名刺交換

投稿日時  : 2017/09/14 14:17

最新編集日時: 2017/09/14 14:17

僕は営業マン。
営業だからお客様のところにはよくアポ訪問する。

つい先日、お客様のところに営業で新規訪問した。
初めての訪問だったにも関わらず、先方は3名で僕を出迎えてくれた。

 

「はじめまして。〇〇商事の高橋と申します。」

「宜しくお願いします。酒井です。」

 

僕はこんな調子で3名と挨拶をし、テーブルについて手元に名刺を置いていった。

 

「酒井様…中山様…神田様…」

あれ?名刺をよくよく読むと3名のお名前が…

 ・酒井 正明(サカイ マサアキ)

 ・中山 美保(ナカヤマ ミホ)

 ・神田雅樹(カンダ マサキ)

 

全員有名人と同じ名前じゃないか!?
でも漢字が全員ちょっと違う(笑)。

 

僕は一瞬止まってしまったが、その後どうしようか悩んだ。

 

これは、場を和ませるためのアイスブレイクとして突っ込むべきか…
それともスルーするべきか…

 

そこで瞬時に、僕は頭の中でシミュレーションしてみた。

 

➀例えば、場を和ませるために突っ込むとしよう。

 「あ、御三方共、皆様有名人と同姓同名なんですね!
  凄いですね!とても珍しいですね!」

 「あー…またその話ですか。
  もう、いちいち反応にお付き合いするの、面倒なんですよねぇ…」

 私にとっては初対面なので珍しく感じるが、既に3名はきっと色々な人から突っ込まれてきたであろう。
 「あぁ、こいつもやっぱりそこに触れてきたか…今までの営業マンと変わらないなぁ…」
 そう思われては、営業としての機会損失に繋がりかねない。

 

➁では、ここは敢えてスルーしておこう。

 「本日はお忙しいところお時間を頂いてありがとうございます。
  早速ですが本日お伺いさせていただきましたのは…」

 「あ、私たちが3人共珍しい名前なの、気づきませんでした?」

 「えっ?…あっ、本当ですね!」

 「よく、皆さん突っ込んでくださるんですよ。
  そういう時、ちゃんと名刺をご覧いただいているんだと、嬉しく思うんですが
  高橋さんはお気付きになられなかったんですね…」

 せっかく気付いていたのに、敢えて触れないことで先方をがっかりさせてしまった。
 距離感を縮める良い機会だったのに、営業としての機会損失に繋がってしまった。

 

 

うーん……どっちに転んでもリスクはある。
どうしよう、どうしよう。

 

考えた結果、僕は何も言わずリアクションだけした。

3名の名刺をのぞき込むオーバーアクションをし、小さな声で「…お」とだけ漏らした。

そして、そのまま本題に入って無事ミーティングは終了した。

 

 

僕の今回の新規訪問営業はこうして終わった。

 

結局、この会社とは取引には至らなかった。

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