僕は営業マン。
営業だからお客様のところにはよくアポ訪問する。
つい先日、お客様のところに営業で新規訪問した。
初めての訪問だったにも関わらず、先方は3名で僕を出迎えてくれた。
「はじめまして。〇〇商事の高橋と申します。」
「宜しくお願いします。酒井です。」
僕はこんな調子で3名と挨拶をし、テーブルについて手元に名刺を置いていった。
「酒井様…中山様…神田様…」
あれ?名刺をよくよく読むと3名のお名前が…
・酒井 正明(サカイ マサアキ)
・中山 美保(ナカヤマ ミホ)
・神田雅樹(カンダ マサキ)
全員有名人と同じ名前じゃないか!?
でも漢字が全員ちょっと違う(笑)。
僕は一瞬止まってしまったが、その後どうしようか悩んだ。
これは、場を和ませるためのアイスブレイクとして突っ込むべきか…
それともスルーするべきか…
そこで瞬時に、僕は頭の中でシミュレーションしてみた。
➀例えば、場を和ませるために突っ込むとしよう。
「あ、御三方共、皆様有名人と同姓同名なんですね!
凄いですね!とても珍しいですね!」
「あー…またその話ですか。
もう、いちいち反応にお付き合いするの、面倒なんですよねぇ…」
私にとっては初対面なので珍しく感じるが、既に3名はきっと色々な人から突っ込まれてきたであろう。
「あぁ、こいつもやっぱりそこに触れてきたか…今までの営業マンと変わらないなぁ…」
そう思われては、営業としての機会損失に繋がりかねない。
➁では、ここは敢えてスルーしておこう。
「本日はお忙しいところお時間を頂いてありがとうございます。
早速ですが本日お伺いさせていただきましたのは…」
「あ、私たちが3人共珍しい名前なの、気づきませんでした?」
「えっ?…あっ、本当ですね!」
「よく、皆さん突っ込んでくださるんですよ。
そういう時、ちゃんと名刺をご覧いただいているんだと、嬉しく思うんですが
高橋さんはお気付きになられなかったんですね…」
せっかく気付いていたのに、敢えて触れないことで先方をがっかりさせてしまった。
距離感を縮める良い機会だったのに、営業としての機会損失に繋がってしまった。
うーん……どっちに転んでもリスクはある。
どうしよう、どうしよう。
考えた結果、僕は何も言わずリアクションだけした。
3名の名刺をのぞき込むオーバーアクションをし、小さな声で「…お」とだけ漏らした。
そして、そのまま本題に入って無事ミーティングは終了した。
僕の今回の新規訪問営業はこうして終わった。
結局、この会社とは取引には至らなかった。
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