これはインド旅行中に起きた出来事。
2日目の朝。僕は宿泊していた首都デリーから、世界遺産タージマハルがあるアーグラに向かった。指定席の切符を買って列車に乗ると、車内は空いていて非常に快適だった。6人席にたった2人という状況。僕と、僕の向かいにターバンを巻いた阿部寛似(以下寛)のかっこいいインド人がいるのみだった。
しばらくすると列車は動き出した。
窓の外を眺めていたら、寛が僕に話しかけきた。
「Japan?」
「Yes!」
そこから簡単な英語で会話を楽しんだ。話してるうちに仲良くなってきて、寛が家族の写真を見せてきた。正直言うと、知らないおっさんの家族ほど興味のないものはなかったが、これから長い列車の旅になる。いい関係性を築きたいということもあって「Oh!!Very!!Cute!!」と言っておいた。そして、寛との会話に疲れた僕は少し眠ることにした。
20分くらい寝ただろうか?
車内が騒がしくなってきたので僕は目を覚ました。目覚めた僕は周りを見渡して驚いた。なんと6人分の指定席に10人のインド人がいるのだ。
……いやいや、何だそれ。
6人分の席に6人座っていても窮屈に感じるほどの小さな席。そんな場所に10人が座ってる。端っこのインド人はお尻の9割が席からこぼれてしまっているし、僕のとなりにいるインド人は頬ずりしそうになるほどの近距離だ。この席はこんな人数が座れる場所じゃないんだ。どうにかしてほしい。
……というか指定席だ!この車両は指定席オンリーなのだからそもそもこんな状況になるはずがない。
僕はどうしていいかわからず困惑した表情で寛を見た。寛も困った表情で僕に応えてくれた。平気な顔をして無銭乗車をしているインド人たちのせいで僕と寛が窮屈な思いをするのは絶対におかしい。僕は心のなかで(寛はインドの言葉が話せるんだから、こいつらに移動するように伝えてくれないかなぁ)と期待した。
そのときだった。
「切符見せてくださいね~」
乗務員が現れた。よかった。これで切符を持っていないインド人たちは消えるはず。そうすれば僕も寛もラクになる。また快適な列車旅が始まる。今度は僕の家族の写真を寛に見せてやろう。
切符を出すように促す乗務員。とぼけるインド人たち。そんな対応を何度も繰り返しているうちに、とうとう乗務員がキレた。
「いいから切符を出せ!持ってない奴は今すぐこの車両から出ていけ!」
よし、よく言ったぞ。
乗務員の迫力にビビって、一斉に席を立ち、去っていくインド人たち。そして寛。
……アンタもだったのか!!
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