数年前まで住んでいたマンションでの話です。
3階建の外廊下(オートロックなし)なので、誰でも玄関先まで来てチャイムを鳴らすことができます。
そんなマンションの1階、階段傍の部屋に住んでいた頃のことなんですが…
夜中にふと目を覚ますと、マンションのどこかの部屋で、チャイムを連打する音が聞こえてきました。
時間は夜中の2時過ぎ。さして大きな音でもないので、その時は気にもせず、再び眠りに付きました。
また数日して、同じことがありました。気にはなったものの、わざわざ確かめようとする訳でもなく、放置してそのまま眠ってしまいました。
そんなことが数度繰り返されたある晩、目を覚ましたあと、しばらく起きたまま、外の気配を伺っていたところ、しばらくして階段を降りて来る人の気配がありました。結局、その日もマンションのどこかの部屋に、迷惑を弁えない訪問者がいるんだなぁと考えたたけで、その日も眠ってしまいました。
翌朝、妻に「夜中にどっかの部屋のチャイムを連打する音が聞こえるんだけど…」と話してみましたが、「私は気付いたことないけど…。でも、ちょっと気持ち悪いねぇ…。」と、さして気にも留めていない様子でした。その時は…。
そんなことが何度か繰り返され、夜中に目を覚ます度にだんだんとイライラしてくるわけです。決して大きくない音とはいえ、夜中にチャイムを連打する行為に、「非常識な奴だ。そのうちとっ捕まえて怒鳴りつけてやろう。」なんて思い始めたのです。
その機会はさして待たずに訪れました。
目を覚ますとどこかの部屋でチャイムを鳴らす音。とりあえず、どんな奴か見てみようと思い、起き出して部屋を出ます。階段を誰かが降りてきた気配もないので、まだその部屋の前にいるはず、と思い、外廊下が見渡せるマンション前の道路に出ると、3階の一番端の部屋の前で、うずくまる人影が見えました。おそらく女性です。住んでいる地域は決して治安が悪いわけではありませんが、夜中の2時、3時に女性が一人歩きをするのにはやはり違和感があります。「とっ捕まえて怒鳴りつけてやろう」なんて勇ましいことを思っていた割には、気味悪いが先立ってしまい、そのまま部屋に戻りました。
しばらくすると、いつもの様に、階段を誰かが降りて来る気配がしました。
その足音はコツ、コツ、コツ…といつもよりも、ゆっくりに聞こえました。
翌朝、妻に以前からのいきさつと昨晩の出来事を話すと、「気持ち悪いね…。でも、3階のその部屋って、誰も住んでないはずだけど…。」と…。
その日の夜のことです。真夜中に我が家のドアをノックする音で目を覚ましました。始めはコツコツと。しかしだんだんとノックは大きくなり、やがて力任せにドアを叩く音になり、妻と二人、あまりの唐突な恐怖に震えていました。
突然、ノックがパタリと止み、今度はチャイムを連打する音が…。
あまりのしつこさに、いい加減キレてドアを開けようとする私を妻が止めている間に、チャイムの音は止み、静寂が訪れました。
そーっとドアを開けてみても、外には誰もいませんでしたが、ドアやチャイムにはベッタリと血の色の手跡がついていたのです。
大慌てで警察を呼び、部屋の中で二人、恐怖に震えていました。数分後、再びチャイムが1度鳴り、恐る恐る覗き穴を覗くと、警察が立っていました。事情を説明しようとドアを開けたのですが、さっきまでベッタリと付いていた血の色の手跡は跡形も無く消えていたのです。
その日以来、夜中にマンションのどこかで鳴るチャイムの音で目を覚ましたことはありませんでした。しばらくして引越してしまい、そのマンションが今はどうなっているかもわかりません。
もしかしたら、何らかの事故物件だったのかも知れませんが、今となっては確かめる術もありません。
数日前に、真夜中のチャイムで目を覚ます夢を見て、思い出してしまったので、いい機会だと思い、文章にしてみました。
細かいいきさつは脚色していますが、概ね実話です。
長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。
コメントを書く