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フィクションランド

短編の作り話を書いて読んで、文章力と読解力を磨こう!
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満員電車は怖い

投稿日時  : 2017/08/07 20:53

最新編集日時: 2017/09/13 17:53

僕の名前は高橋 卓人(たかはし たくと)。
両親が音楽関係の学校の先生をやっていることからも、名前の由来が想像できると思うが
僕自身、普通の営業サラリーマンだ。
そこは親の期待を裏切ったのかもしれず申し訳ないと思う。

今は28歳。転職してもうすぐ半年。
今は15分間満員電車に乗って通勤する毎日だ。

いつも同じ時間の同じ電車、同じ扉から半年間乗っていると
満員とはいえさすがに乗車する人々も馴染みの顔になってきた。

乗ってすぐ目の前には白髪混じりの中年男性。
すぐ近くのつり革にはイヤホンをしなからスマホゲームに没頭する若い男の子。

ちなみにイヤホンをしながらスマホゲームをしている若い男の子と言っても
あまり若くはないかもしれない。
無造作な髪型は脂ぎっているものの、整髪料のそれとは違う。
スーツではなく私服なのだが、Tシャツはダルダルで
もしかしたら僕と同い年くらいかもしれない。

僕は電車の混み具合によって、その男性の後ろに立つこともあるのだが
先日、毎日やっているゲームが気になって後ろから覗いたことがあった。

覗いてみるに、ゲーム内容はダンジョン系。
でも、プレイ内容は何度も同じことをやっているように見えた。

暗闇の中を2人の男女がまっすぐ進んでは穴に落ちるゲーム。
穴に落ちたらまた暗闇の中をまっすぐ進んで、また穴に落ちる。
こんなゲームの何が楽しいんだ、と思っていたが
詳しく覗き込んでいくうちに、僕は「えっ!?」と思った。

何かのコマンドで男女の名前を確認できるようだが、その名前が
「たくと」と「ゆみこ」だった。
「ゆみこ」とは僕の彼女の名前だ。

「この人の名前もたくとって言うんだ…珍しいな。女側の名前まで…」
と、偶然中の偶然に絶句してしまった。

それから何日か、その男性の後ろに立つこともなかったが、相変わらず
その男性は毎日同じところで同じようにゲームをしている。
男性がスマホ画面を見入っているせいか、僕はその人の顔を見ることも出来ないし
変に思われても嫌なので、特段気にすることもなかった。

しかし、先日こんなことが起きた。

ある日の日曜日に彼女の由美子とデートをしたが、夜遅くまで遊んでしまい
お互い一緒に最終電車に乗った時のこと。
さすがに日曜の終電は次の日のこともあってか、乗車する人が非常に少なく
僕と由美子は座席の真ん中に座った。
その電車の車両を見渡しても、せいぜい10人いるかいないかくらいで
とにかく車内は空いていた。

由美子と一緒に話しながらふと前に目をやると、僕は思わず「あっ」と
声を出してしまった。

目の前にはスマホでゲームをしている男性。脂ぎった髪にダルダルのTシャツ。
そう、いつものあの男性だった。

僕は慌てて、小声で由美子に言った。
「前の男性を見て。ほら」と。

男性に気付かれたくないので、相当な小声で由美子に話したせいか
由美子にはよく聞こえなかったようで
「なに?えっ?」
と聞き返される始末。ジェスチャーしても男性に気付かれてしまうし、まぁ
後で電車を降りてから話せば良いと考え、それ以上僕は何も言わず
由美子と別の会話をしながら、ただただ男性を見ていた。

ただ、心の中では
「なんで?なんであの人が?偶然か?」
と思っていて、由美子の話は全く耳に入っていなかった。

毎朝同じ電車に乗っているわけだし、男性も帰るなら確かに同じ電車のはず。
それにしても、先日のゲームプレイヤーの名前のこともあって
僕は不思議に思いながら男性を見続けた。

「どんなゲームをしているか分からないけど、よくそこまで没頭できるな。
よっぽど面白いゲームなのかな…。でもただただ穴に落ちるゲームって…。」
そう思いながら男性の持っているスマホを見て、僕はぞっとした。

違う!スマホを見ていない!
スマホの画面から反射して映し出されている僕を見ている!

恐くなった僕は思わずその場で立ち上がった!!

今思えば、男性の顔が見えなかった理由も分かった。
いつもスマホの画面で反射する僕を見ていたんだ。
スマホの画面に映される僕を見ていたから、
僕から男性の顔を見ることはなかったんだ。

「どうしたの?卓人。」
急に立ち上がった僕に由美子が言った。

僕は恐くなって、その男性に叫んだ。
「なんだ!お前!!!俺と由美子の何なんだ!何を見ているんだ!!」

車内はほとんど人がいないし、僕の中では恥ずかしさよりも怖さが勝ち
何度も怒鳴った!
「おい!聞いているのか!!おい!!!」

その後すぐに由美子が僕に言った。

「ねぇ卓人、誰に言ってるの?」

程なくして電車はトンネルに入った。

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みんなの感想(2件)

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