今日は日曜日-
仕事は休みだが、特に何の用事もない自分は、
渋谷のセンター街を当てもなくふらふらと歩いていた。
横目で見かけた宝くじ売り場でなんとなく1枚200円のスクラッチを買ってみるも当たるはずはなく。
今週もピンと冴えない休日を過ごしていた。
彼女もおらず、友達も少なく、無趣味な僕は、家の中にいても気晴らしはできず、
休日は外に出かけることが多かった。
公園で1人のんびりと時間を潰すことも多く、喫茶店に入りお茶することもあったが、
それもたまにのことであった。
渋谷の人混みに紛れながら歩いていると、黒い大きな看板がふと目に入った。
「ダーツバー・・・」
ダーツなんて今までしたことが無かったが、暇だった僕は吸い込まれるように
バーに続く階段を登っていった。
バーの中は意外と広く、大きなカウンターの奥にダーツ代が6台並んでいた。
先客がいて1人男性がダーツを投げていた。
僕は昼間だが喉が渇いていたのでビールを頼み、ダーツ台の前のテーブルに座った。
100円で1ゲームかできるようで、「301」という数字を減らしていき0点丁度を狙うゲームに
挑戦することにした。
最初は、隣の男性の見よう見まねで投げていたが、
BULLを狙うだけでない奥深さが面白く、いつのまにか夢中になっていた。
次の週も暇だった僕は、同じくらいの時刻にダーツバーに赴くと先週と同じ男性がいた。
僕に気付くと、「先週もお会いしましたね。」と軽く会釈をしてくれた。
301で勝負をしないかと誘われ、共にダーツをした後、一緒に夕飯を食べた。
彼は既に結婚しているようで、単身赴任で東京に来ており、休みの気晴らしにダーツバーに通うようになったとのことだった。
雰囲気が似ていた僕たちはすぐに意気投合し、バーで会うと一緒に週末の時間を楽しむようになった。
僕はその後も毎週のようにダーツバーに通った。
数ヶ月後のある週も僕はダーツバーを訪れたが、今日は友人の彼はいなかった。
アイスコーヒーを注文しテーブルに着くと、女性が1人入ってきた。
きょろきょろと見回し、飲み物を頼むと僕から少し離れたダーツ台の前に座った。
挙動から彼女はダーツの経験があまりなさそうに思えた。
僕は気にしないようにダーツを投げていると、急に声をかけられた。
「あの、ダーツってどうやってプレイするんですか・・・?」
僕は彼女が見知らぬ自分に声をかけてきた勇気に驚き、数秒間沈黙したが、
ダーツ歴数ヶ月の初心者であることを伝えた上で、自分なりの投げるコツや、
本やネットで調べた知識を教えると、首を振り、関心しながら喜んでくれた。
彼女にダーツバーに訪れた理由を尋ねると、また僕と同じように週末を持て余していた1人だった。
その日は、その場での関係として別れたが、次の週も彼女はダーツバーを訪れた。
僕の友人も来ていたため、友人に彼女を紹介すると、次からは3人でダーツを楽しむことも、
時に、一緒にお酒を嗜むことも増えていった。
僕は会う度に彼女の素直さに惹かれていき、人生初めての告白をしてOKを貰った。
偶然見つけて立ち寄ったダーツバーが、僕の人生を変えた。
夢中になれる大好きな趣味に、友人と、素敵な彼女もできた。
あの時、偶然見つけたダーツバーに1歩足を踏み入れたからだ。
今までの自分には考えもつかないことの連続で、可笑しくて笑ってしまうこともあった。
しかしその間も幸せで胸は高鳴り続けていた。
ダーツの矢を見つめて思う。
”この一本の矢は僕にとってのキューピッドだ-”
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