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フィクションランド

短編の作り話を書いて読んで、文章力と読解力を磨こう!
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レキシ (7/7:最終話)

投稿日時  : 2017/09/20 01:13

最新編集日時: 2017/09/20 01:13

短い人生だったが、この数ヶ月で数十年分の経験をした。歴史の意味、生きることの意味を、旧人類たちから教わった。それだけで俺はもう十分だ。
その時、聞き覚えのある鬱陶しい声が頭部に響いた。
「ロウ!」
振り向こうとしたのも束の間。
俺を捉えていたはずの配線はちぎれ、地面に落ちていく。それと同時に、俺の体も地面に転がり落ちた。
右腕に残っている配線が俺の体をもう一度引き上げようとするが、その配線も一瞬にして焼き切れていった。
「げほ、げほ……」
せき込みながら、後ろを見ると、小型宇宙船の上に乗ってビーム砲を小脇に抱えるヨルハの姿があった。
「ヨルハ……」
「あんた、ちゃんと通信に答えなさいよ! もう!」
空洞内にアラート音が鳴り響く。
「大人しくしなさい。これは人類の存続に必要な過程なのです」
「うるさいわね! ごちゃごちゃごちゃごちゃ! さっきから、あんたたち何話してんだか、さっぱりなのよ! でもね、これだけは言えるわ。人の知性を奪う? 感情を奪う? 馬鹿にしないでもらえる? あんたらがどんなに足掻いても人はみんな笑ったり、怒ったり、泣いたりする生き物なの。旧人類の彼らだって、一生懸命生きてたわ! 一生懸命に笑ってたわ! あんたらが思うほど、人間は単純にできていないわ!」
「ヨルハ、お前……」
「ロウ! あんたは、こんな奴らの言いなりでいいの? 私はまっぴらごめんだわ」
ヨルハの威勢の良い声が、俺の生命力をもう一度駆り立てた。
「俺もだ!」
「なら、早くこんなとこ出るよ!」
「おう」
俺は体に巻き付く配線を払いのけて、ヨルハのいる小型宇宙船まで全速力で走る。後ろからは先ほどよりも多くの管が追いかけてくる。だが、そのほとんどをヨルハは撃ち落としていく。
あっという間に、小型宇宙船の上部までよじ登り、俺は上部の入り口からなかに入った。
ヨルハも、続いてなかに入り、操縦席に座る。
「さっすが、史上最年少の隊長さん」
「このくらい当然よ、じゃあ飛ばすわよ!」
宙に浮かぶホログラム式の操作パネルのボタンを押すと、小型宇宙船は急発進した。後ろから追いかけてくる配線を、宇宙船のおしりについている火炎放射器で焼き切っていく。
スピードに乗っていくなか、船内の揺れは激しさを増していく。
「おい! 飛ばし過ぎじゃねーか?」
「こんなんで何ビビってんのよ、それでも男?」
「そんなこと言ってると、男女差別で中央管理局に目つけられるぞ」
「知ったもんですか!」
小型宇宙船はあの氷の人形たちのところに近づいてきた。
「あれは踏むじゃねーぞ!」
「わかってるわよ。いっくわよー!」
ヨルハはホログラムパネルを高速で操作する。すると、氷の人形たちの直前で、小型宇宙船は壁を伝いながら、天井まで駆け上がり張り付くように走行した。
「うおー」
俺たちの体は逆さ向きになっている。
勢いを失わないうちに、氷の人形たちを超えて、通常通り地面に戻って走行する。
「サイコーね!」
「お前って、案外、気性荒いのな」

ほどなくして、洞窟を抜け、俺たちは雪原に戻ってきた。
後ろを振り返ってみるが、もう何も追いかけてくるものはない。
「ふー、なんとか撒いたか」
「そうね」
ヨルハは楽しそうに笑っている。
「にしても、助けにくるとは思わなかったぜ。もしかして、俺に惚れてんのか?」
「ば、馬鹿言わないでよ。誰があんたみたいな、テキトー男好きになるのよ」
「地味に傷つくな、おい」
「でもね、ひとりだけじゃ不安だったのも事実よ。それに、あなたが前に不安を取り除いてくれた時のお返しもしてなかったし」
「律儀なやつ」
「そうよ、私は律儀なの」
外の景色は相変わらず真っ白なままだ。
「なぁ、これからどうするよ? あの様子じゃ、お前もデウスシステムのこと知っちまったんだろ?」
「ええ」
「まずは、ケプラーに戻るか?」
「いや、他の探索班がどうなっているのか気になるわ。それに、できる限り助けてあげたいじゃない? 私一応、隊長だし」
「そうだな、話はそれからだな。でもよ、備蓄用の食料はあと2ヶ月分くらいだろ? 旧日本地区を縦断する間になくなっちまうな」
「その時は、あなたが鹿でもとってきてくれればいいのよ」
「簡単に言うなよ」
「でも、あなたならできるでしょ?」
ヨルハは俺を横目でちらっと見ながら小悪魔的な笑みを浮かべた。
「はいはい、そんときゃやってやるよ」
 

白い大地。
白い大気。
まだ何も見通しがつかないままだが、俺たちには俺たちなりの進む道があるはずだ。そして、その行動が歴史の一部になっていくはずだ。
背後の洞窟から地鳴りのような轟音が響き、小型宇宙船の速度が僅かに上がったように思えた。

(了)

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