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フィクションランド

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レキシ (2/7)

投稿日時  : 2017/09/20 00:50

最新編集日時: 2017/09/20 00:50

11月10日。
旧日本地区、関東エリア。
俺たちは着陸直後から、小型宇宙船を自走モードに切り替えて、広大な雪原を探索し続けた。
その結果、探索2日目にはすでに旧人類を発見することに成功していた。

3ヶ月が経過した今、旧人類の住処である洞窟にいる。
洞窟は20メートルほど奥まで続いており、比較的広い。
相変わらず、氷河期に突入している地球の空は雲が覆いつくしており、太陽の姿を拝むことはできそうにない。
ゆえに、気温は氷点下20度近くだ。
ただ、洞窟の中は焚火をしているせいもあり、0度近くまで温まっている。

「あれほど旧人類と接触するな、と言ったであろうが!」
密着型宇宙服の頭部に、小型宇宙船から通信を入れているヨルハのやかましい声が響いた。
この宇宙服は体の毛穴にまでぴったり張り付き、汗などの老廃物を吸収し外へ排出したり、外の空気を俺たちに適した酸素濃度に変更し頭部まで運んでくれたりする。張り付いてはいるが、息苦しさはほとんど感じない。
「うるせーな。仕方ねーだろ、先に見つかっちまったんだからよ」
先に旧人類を発見するはずが、俺たちが先に発見されてしまったのだ。
攻撃されるかもしれないと不足な事態を考えはしたが、現状では特に問題なくコミュニケーションをとっている。
「それもそうであるが……」
「あと、その話し方まだ続けんのか? 普通にしてた方がお前らしくていいと思うぜ」
「もう……わかったわよ」
「そんで、解析結果はどうなんだ?」
「あなたからもらった旧人類の毛をデウスシステムで分析したんだけど、面白いことがわかったわ」
「っていうと?」
「旧人類はたったこの450年くらいの間で急激に退化したようなの」

目の前の旧人類を見れば、それは容易に納得できることだ。
旧人類といえども、高度な文明を築いてきた俺たちの祖先だ。だから、それなりに文明的な生活を送っているものとばかり思っていたが、実際は石器時代のような生活レベルにまで退化していた。体には獣の毛を巻き付け、槍を研ぎ、焚火で暖をとる。そんな原始的な姿に戻ってしまっていたのだ。この450年の間に何が起こったのか、今のところさっぱりわからない。
「言語能力はほとんど退化しているし、それに一番変なのは成長速度の速さと寿命の短さよ」
俺たちが旧人類と接触した時、まだ小さな赤ん坊が10人ほどいた。
しかし、3ヶ月経過して、その赤ん坊たちはすでに13歳くらいの体格になっている。
「デウスシステムによれば、彼らの寿命は平均1年ほどらしいの」
「1年たぁ、随分短い人生だな」
「1年の間で赤ん坊から老人になってしまうみたい。どうしてこうなったのかは、シークレットになっていたわ」
「は? シークレット? ってことは、情報自体は解析できてんのか?」
「そうみたい」
「なんじゃそりゃ……」

そんな2人の会話に割り込むようにして、ひとりの少女が俺の膝の上に座った。
獣の皮を巻いた少女は、一冊の本を手にしていた。
奇妙なことに、洞窟の壁には本が重ねられているのだ。言語能力はないから読めないはずなのだが。
「ああ、うう!」
少女は言葉にならない言葉で話しかけてきた。
どうやら、本を読んでほしいらしい。
「どうせ読んでもわかんねーだろ?」
「レ、レキシ!」
「はいはい」
俺が本を受け取ると、少女はまだあどけなさを残す笑顔を向けてから、俺の膝に座り直した。
本のタイトルはE・H・カーの『歴史とは何か』だ。
「こんな難しいもん、俺でもわかんねーっての」

俺はテキトーに開いたページを読み始めた。
「過去も未来もそれぞれ同じ時間というものの一部分なのですから、過去への関心と未来への関心とが結び合わされているというのは見易い理であると思います」

「それにしても、どうして、彼らは本なんて残しているのかしら?」
「わかんねーけど、自分たちの祖先が辿ってきた歴史を残しておきて―のかもな」
「ふん、くだらないわ。歴史なんてなんの役にも立たないじゃないの? 大事なのは今をどう生きるかよ」
「そりゃ、俺たちはそう教育されてるからな。でもよ、よく考えりゃ、不思議なことが多くねーか? 俺たちはどうやって生まれたのか? 俺たちの祖先は何をしてきたのか? 俺たちはほとんど知らない。どうして、デウスシステムは俺たちに歴史を学ばせてくれないのか? わからないことだらけだ」

膝の上の少女は「レキシ!」と連呼している。
「それによ、俺は、どうして何も話せないこいつらが、歴史って言葉だけ覚えてるのかが気になる」

ヨルハと話してばかりいることに少女は怒って、腹をつねってきた。
「レキシ!」
「はいはい……」
少女は再び、満面の笑みを浮かべた。

(つづく)

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