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フィクションランド

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ブラックな上司

投稿日時  : 2017/08/29 15:08

最新編集日時: 2017/09/13 17:53

僕の務める会社は比較的大きく、都内の一等地にある10階建ての自社ビルだ。

僕の直接の上司は木村部長。でも、この木村部長とはいつもウマが合わない。

例えば、僕が営業から帰ってくるとすぐ
「おい!高橋!昨日の●●商事との締結書類、稟議上げたのか?」
と言ってくる。

「はぁ…すみません。昨晩の話でしたので、本日これから取り掛かります。」と言うと、

「すみませんじゃねーよ。昨晩中にやっておけば、今頃終わってた仕事だろうが!」等と怒られる…。

ちなみに昨晩といっても21時のことだし、僕は次の日朝から外出だったので
戻り次第すぐやろうと思っていたところだった。

僕はもう28歳。
新卒から勤めているこの会社は、比較的人事異動が多く
僕はつい1年前に新しくこの部署に異動してきたのだ。
その異動先の新しい上司が木村部長である。

入社から5年は経過しているので、僕も仕事には小慣れているはずだったが、
異動してからはずっと木村部長にコキ使われてきた気がする。

呑み会となれば、僕より若い子がいるにも関わらず「高橋!ビール追加!」と言われ
忙しい時も「あ、その件は弊社の高橋にやらせますので」と、客先に僕を勝手にアサインする。
嫌がらせかと思うほど厳しく…ブラックな上司だ。

「だったらそんな会社辞めればいい」と思う人もいるかもしれない。
でも僕が会社を辞めない理由は社長。
実はこの会社の社長には本当に良くしてもらっていて、僕は社長が大好きなのだ。

「いつかこの社長の近くで働きたい」「だから昇進したい」と思って早6年。
まだまだ平社員の僕は、木村部長よりはるかに下の存在であり
社長と仕事が出来るなんて機会は全くない。

なぜ社長が好きかと言うと、それは趣味。
たまたま僕が通っていた将棋教室でバッタリ社長とお会いしたのがきっかけだった。

初めて将棋教室で社長をお見かけした時、僕はすぐに「お疲れ様です!」と声をかけた。
でも社長は「ん?」という表情だったので、すぐに僕は「第2営業部の高橋と言います」と続けた。
すると社長は「君はうちの会社の子かぁ。そっかそっか。ここにはよく来るのか?」とお話しいただき
それからというもの、頻繁に将棋教室でお会いするだけでなく
たまに食事に連れて行ってもらえるような間柄にもなったのだ。

ちなみに、社長と僕の間柄を社内の人に知られたら色々と具合も悪いだろうし
何より社長に迷惑がかかると思い、僕は社長とのことは誰にも話していなかった。
社長も特に誰かに話している様子もなかった。

そして、将棋を通して社長の話や考え方、会社に対する想いや熱意を聞いているうちに
僕は「この人のそばで働きたい」と強く思うようになっていった。

だから何とか木村部長の下でも働いてこれたのだ。
でも、そろそろ僕も限界になってきた3月のこと。

4月からの新しい異動や昇給、昇進等が控えているこの時期。
いかにもっていう感じだが、それでも僕はついに初めて自分から社長にお声がけさせていただいた。

「社長、お忙しいところ申し訳ございませんが、少しお話させていただけませんでしょうか」と―。

今まで僕から連絡したことがなかったこともあり、社長も察してくださった様子で
「分かった」と快諾していただいた。

その晩、社長と高級な居酒屋で話をすることになった。

「で、高橋。話ってなんだ?」

「はい。実は僕の今いる部署と木村部長のことなのですが…」

僕は思いの丈を全て社長に伝えた。時間にして30分くらい話し続けただろうか。
その間、社長はずっと黙って頷くだけだった。

ひとしきり僕が話した後、5分くらいの沈黙を経て社長が重い口を開いた。

「こんなこと言うべきじゃないかもしれんが、実は今度の4月で高橋の評価が飛躍的に上がることになる。
 それを私に直接懇願し、何度も何度も頭を下げてきたのは他でもない木村部長なんだ。」

「えっ?」と僕。

社長は続けた。

「正直、異動前の高橋の評価は非常に低かったんだ。
 高橋のことを『入社して5年経つのになかなか芽が出ない』と言う上司がいてな。
 その上司から高橋を快く引き受けたのが木村部長だったんだ。

 木村部長は『絶対、高橋を一人前にする』と豪語し、とにかく高橋の教育に力を入れていたんだ。
 お前自身気付いていないかもしれないが、この1年でお前は本当に躍進したんだぞ。」

僕はびっくりしながらも、その場で涙が溢れ出て止まらなくなった。
木村部長から受けた色々な叱咤が走馬灯のように蘇ってきた。

そして4月―。

今日も木村部長から僕に怒号が飛ぶ…。
でも、その怒号も今までとは違って聞こえるようになった。

「昨日の書類、もう作業を済ませたのか!?高橋主任!」

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