それは台風の日曜日―。
友だち十数人でお台場まで遊びに行った時のことだ。
アトラクションランドでさんざん遊び、その後ボウリングも2ゲームして20時頃に解散した。
十数人もいたので、アトラクションランドでは班に分かれて行動し、
ボウリングではチームで勝負したり、ヘトヘトになるまでとても楽しく過ごした。
しかし解散後、外に出てみるとやはり台風。
雨風が強く、遊び疲れた僕たちには帰宅するのも億劫になるほどだった。
東京テレポート駅から帰宅する友人もいれば、僕のように台場駅から帰宅する者もいる。
しかし、大半が東京テレポート駅を利用して帰宅するようで
僕と共に台場駅から帰宅するのは雅紀と加奈子の2人だけだった。
帰宅途中に加奈子が言った。
「ねぇ、お腹空いたから途中でご飯食べて帰らない?」
僕はさほどお腹は空いていなかったが、これには雅紀も合意したため、
僕たちは途中の乗り換え駅で下りて夕食を摂ることにした。
「洋食屋・・・ここで良いんじゃない?」加奈子が言った。
ここなら軽食からガッツリしたメニューまである。
何より台風の日曜日だったし、翌日は仕事だ。
早く食事を済ませて帰るにはちょうど良さそうだった。
「いらっしゃいませー」
店内に入ると中年の男性店員が2名。調理場のコックとフロアのスタッフ。
どちらも40代後半くらいの歳のように見えた。
ここはビジネス街。日曜の、しかも台風の夜。きっともうすぐ店仕舞いだったのだろう。
のんびりOPENしている様子が窺えた。
その証拠に客もほとんどいない。3人の30代男女が1組いるだけだ。
食事を終えて、締めにコーヒーを飲みながら
いつ席を立っても良いかのようにダラダラと談笑していた。
僕たちは席に案内されると、すぐにメニューを見た。
そして示し合わせたかのように、すぐに店員を呼んだ。
お腹が空いているとはいえ、きっと早く帰宅したい思いは一緒だったのだろう(笑)。
加奈子「ロールキャベツとソーセージのスープで」
雅紀「エビグラタン1つ」
僕「タンシチュー1つ。あとドリンクバー3人分」
男性店員「かしこまりました。」
洋食屋にドリンクバーがあるのも珍しいが、僕たちはホットコーヒーや紅茶を飲みながらそれぞれ頼んだ食事を待つことにした。
しかし、なかなか食事が出てこない。
僕はホットコーヒーの2杯目を注いだ。
「来ないね」「早く帰りたいのにね」「もう九時になっちゃうよ」
「シチューを今から煮込むんじゃない?」
などと話しつつ、待つこと20分。
「お待たせいたしました。こちらロールキャベツとソーセージのスープになります。」
「エビグラタンのお客様。」「はい、俺です。」
加奈子の分と雅紀の分が配られた。
「どうぞ。僕のことは気にせず、加奈子は食べるの遅いから先に食べちゃいなよ」
「あらそう?じゃあお先にいただきます」
それからほどなくして僕のタンシチューが届いた。
タンシチューと言っても、それは牛タンをデミグラスソースで煮込んだもので、一般的に想像するようなシチュー感は無い。
人参も無ければジャガイモも無い。タマネギも固形としては見えない。
見た目だけで言えば煮込んだシチューにデミグラスソースをかけたような印象だ。
それどころか、器の3分の2はパスタが占めている。
僕がこのメニューを名付けるなら「牛タンのパスタ デミグラスソースがけ」とするだろう。
しかし、もう時間は21時を回っている。明日は仕事だ。そして今は台風だ。とにかく早く食べよう。
そう思いながら僕はフォークを進めていると、タンを口に入れた時に「カリッ」と音がした。
まるで魚の骨を食べてしまったかのような口の中の感覚だった。
「あれ?タンに骨なんてないよな…」僕は食べながら独り言のようにつぶやくと
「どうしたの?」と加奈子。
僕はそのカリッとしたものを口先までずらし、指で取り出すと
それは銀の針金のような…ステンレスを細くカンナ掛けしたようなものが出てきた。
「なんだよ、それ」と雅紀。僕はそれを紙ナプキンの上に擦り付けるように置きながら
「分からない。タンを煮込むときに巻いていた何かが入っちゃったのかなぁ」と言った。
「店員さんに言ったほうが良いよ」と加奈子は言ったが、僕は「まぁ時間ないし、いいよ。とりあえず食べる」と
引き続きフォークを進めることにした。
しかし、その次の瞬間、フォークで掬ったパスタの上にまたステンレスを細くカンナ掛けしたようなものが出てきた。
「ダメだ。遅くなっちゃうけど言うわ」
「すいませーん!」
コメントを書く