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霊験あらたかなお守り(前編)

投稿日時  : 2017/09/19 10:16

最新編集日時: 2017/09/19 10:16

僕はここのところずっと気分が落ち込んでいた。
仕事もあまり上手くいかず、私生活でも妙に上手くいかない。

会社の業績も伸び悩み、友人とも喧嘩して疎遠になってしまったり、身内に不幸が続いたりした。
また、最近は風邪をひくことが多くなり、季節の変わり目ではいつも長引く程こじらせていた。

もちろん日々怠惰な生活をしているわけではない。勤勉に仕事にも取り組み、健康を意識して運動もしている。

何より友人や他人、家族にも多く気遣ってきたつもりだ。
仕事でも私生活でも、自分より周りの笑顔を大切にして生きている。それだって押し付けがましく対価を求めることはしない。
今までそう生きてきたし、僕自身、それで幸せを感じていた。

でも、最近何か足りない。虚無感と言えば良いのか、自分の人生の中で何かが足りない気がしてならない。

別に生活に困窮しているわけでもない。確かに僕はお金至上主義で、お金で幸せは買えなくとも不幸せは払拭できると信じている。
だからと言って、ケチでも貯金が趣味でもなく、人並みの給料と暮らしをしている。だから、虚無感の原因はお金かと言われても違う。

こんな話をしていると「一体何を欲しているんだ」とか「贅沢な悩みだ」とか嫌悪感を抱かれるかもしれない。
でも、この物足りなさこそ僕が落ち込んでいる元凶なのだ。

 

僕だってこんな煮え切らない日々を送るのは嫌だ。だから変わるきっかけが欲しくて色々チャレンジしてみた。

休みの日に遠出したり、カラオケで散々歌ってみたり、1日中ゴロゴロして頭を空っぽにしてみたり。
こんなことでも、僕からすれば立派なチャレンジだった。足掻きながら僕なりに試みたつもりだった。

あと、インターネットでショッピングサイトをダラダラ見たこともあった。
衝動買いでもすれば、生活に潤いが出るのではないか。
えも言われぬモヤモヤな気分を買い物で発散することはできないだろうか。
でも結局欲しいものも見つからず、なんとなく「お守り」「守護霊」「パワーストーン」等の神秘的なものを見ていた。
まぁ、これもネットサーフィンの一種であり、これを機に宗教的な何かや非現実的な何かに開眼しようなんてつもりも無い。
しかし、こういったものを見るほど僕の虚無感は膨らみ、気に病んでいたのだと思う。

そして、そんなある日、オークションサイトを見てそれを発見した。

それは、とある県の奥地にあるパワースポットとしても有名な神社の大変珍しいお守りだった。
それがなんとオークションに出品されていたのだ。

出品説明によると、中途半端な気持ちで手にしてしまうと、逆に自分が飲み込まれてしまうほど
霊験あらたかなお守りとのこと。滅多に手に入らないこともあってオークションに出品したのだろう。

そのお守りの紹介欄には読んでいるこちらが引いてしまうほど神妙に説明されており
出品者がどれほど苦労して手に入れたかも詳細に記載されていた。

本来は自ら神社まで赴き、ちゃんとしかるべき手段で、手にするからこそお守りはご利益があるというもの。
こうしてオークションサイトを使って間接的に手にするという不道徳さに疑念を抱きつつ
それでも僕は吸い込まれるようにそれを落札した。

落札価格は本来現地で購入する3倍の金額。でも今の僕にはこれくらいの間接さと価格がなぜかちょうど良く感じていた。

そして、オークション売買の手続きを経てお守りは僕の手元に届いた。
桐箱に入ったお守りは、その神社の御神木の一部が入っているらしく、木の香りを心地良く漂わせていた。
僕はお守りを桐箱から出すとすぐに、いつも使っている鞄に結いた。

こういうのも自己暗示的な要素が多いことは分かっていたし、僕は何かを期待していたわけではなかった。
実際、僕の日常は特段変化しなかったし、相変わらず虚無感が絶えない日常が続いていた。

 

しかし、そんな日々がちょうど1週間くらい続いた頃だろうか。僕と僕の生活に変化が起こり始めたのだ。

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