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フィクションランド

短編の作り話を書いて読んで、文章力と読解力を磨こう!
フィクションランドは暇つぶし感覚で心を豊かにします。

第三の瞳(第一話)

投稿日時  : 2017/09/14 00:59

最新編集日時: 2017/09/14 10:33

   壱

彼女はいつも考えていた。人はなぜ人を愛したがるのかと。

「現実とは、人間が自分で作り出す殻の内側のことを言うの。私たちは子供の頃、殻の外で走り回っていたのに、いつの間にか、どういうわけか自ら殻を作るようになる。その殻が大事で仕方がないのね。みんな、それを大事そうに一心不乱に補修するの。けれどね、おかしいとは思わない? いくら内側を頑丈にしたって、外から叩かれてしまったら元も子もないでしょ? 大人になると、そんな当たり前のことにすら気付けなくなるのよ。でもね、ごく稀に外に居続けたい、純粋であり続けたいと願う人がいるの。それが私であり、将来のあなたでもあるの。ほら見て、あなたの殻にもひびが入っているわ」

そう言って当時8歳の少女は、白衣姿の私に手紙を渡した。
病院の廊下は絶望の臭いがたちこめており、人の気配はありながらも、希望の気配は感じられなかった。
8歳のものとは思えない艶めかしい指先は手紙に指紋を張り付けながら、私の手を撫でまわすように触れていった。

「これは?」
「プレゼント」

だが、そこには何かが書かれていたものの、何も書かれてはいなかった。
記号や数字、漢字やひらがなが無造作にちりばめられていた。
言葉とは意味を成して初めて言葉になる。
私はそこから、意味を抜き出すことができなかったのだ。
ゆえに、紙の上を漂うあの言葉らしき何かを説明することは叶わず、何も書かれていないと判断するほかなかった。

「フフフ」
私の困り果てた顔を覗き込んで彼女は、口角をゆっくりと吊り上げながら微笑んだ。
つい2分前に、病床に横たわる母親の死に顔を見たというのに、彼女は涙を見せるどころか薄気味悪い笑顔を浮かべるばかりであった。

彼女は笑うのをやめて、真顔になった。
「可哀想」
「お母さんは、可哀想ではないよ。君のことを天国から見守っているはずだ」
そんなことは毛ほども思っていない。
彼女の母親を、三島美佐を殺したのはこの私なのだから。
「違うよ」
彼女は目を限界まで見開いた。眼球の血管は脈を打ち、それ自体が生き物であるかのように蠢く。
「可哀想なのは、あなたのほう」
その瞬間、彼女の隠微な瞳によって、私の喉には大量の生唾が流れていた。

   弐

―10年後―

「10年前、当時33歳の被害者、三島美佐さんに薬物の多量摂取をうながしたとして、容疑のかかっている帝都大学病院医師の丸山道尾容疑者が解雇処分になったということが、今朝、病院側の記者会見によって明らかになりました。しかし、容疑者は殺しの手口として、当時抑うつ状態にあった三島美佐さんに、現金問屋などから薬を不正に入手する手引きをし、過剰な服用を勧めたに過ぎず、直接殺人に関与していないことから、殺人罪は適用されないと刑事訴追が見送られています。続いてのニュースです。先月ネットをにぎわせた呪いの小説について、行政による削除が進められており……」

テレビ画面には、三島美佐殺人に関するニュースが流れている。
シャンデリアが下品にぶら下がるリビングのソファーで、私は脂汗をにじませていた。

当時、私には愛人が何人かいた。
そのうちのひとりに、三島美佐がいた。
20代半ばの頃から、私と彼女は密会をくり返した。
私には家族がおり、彼女にも家族がいた。

30代を過ぎてから、彼女は夫と離婚すると言い始めた。
原因は、DVだったと記憶している。
そこで彼女は、私にも離婚をするよう迫ってきた。
妻の父は、今や政権の中核を担う大臣だ。
当然、離婚などできるはずもなかった。
私の地位をゆるぎないものにするためには、妻と結婚生活を続ける必要があったのだ。
しかし、彼女は次第に家まで押しかけてくるようになった。
この時点で、彼女は私の生活を脅かす存在となった。

そこで私は現金問屋を使って、抑うつ状態に悩んでいた彼女に薬物を勧め、徐々に弱っていく姿を眺めた。
症状が悪化していくなか、彼女は病床で不倫の事実を話し始めていたが、病人の戯言として誰も耳を貸さなかった。
そして、彼女は死んだ。
これで終わりになるはずだった。

くそ、などという有り触れた罵詈雑言が口から洩れそうになった。

―ドン、ドン!
天井から忙しない足音が響いてきた。
「なんだ?」
時刻は夜中の12時である。
2階には、私の娘である結衣と清香の部屋がある。

「やめなさい!」
今度は妻の声だ。
夫が窮地に立たされているときに、何を呑気に騒いでいるのだろうか。
非常識にも限界があるというものである。

私は種々の出来事に腹を立てながら、ドタバタと騒々しい2階に上がった。
螺旋階段の先にある、廊下を進み、音の発信源である清香の部屋をノックした。

部屋に踏み入った瞬間、強烈な鉄の臭いが鼻にこびりついてきた。

(つづく)

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  • うううん (1)

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みんなの感想(5件)

不快に思われた方、大変申し訳ありませんでした。

低評価が続くようでしたら、皆様に不快な思いをさせないよう、連載を中止いたしますので、ご理解いただければと思います。

今、気づいたことですが、「うううん」という最も低い評価をつけられているのは、私の作品だけのようです。
ある意味、嬉しくもありますが、完成度が低いことの証明、あるいは、不快な作品であることの証明でもありますので、真摯に受け止めて、今後の作品に磨きをかけて参ります。

いやいやいや!続きを是非!!楽しみにしてた!!
「うううん」をクリックした奴ぁ知らんが、楽しみにしてたので是非続編をお願いします!
あと、レキシも楽しく全部読みました!素晴らしいです♪

    苦笑いライダーさんへの返信

    お忙しい中、一読いただきありがとうございます。
    とても、励みになります。
    ご要望通り、続編も更新して参ります……公序良俗に反しない、ギリギリのラインで。

    私も『霊験あらたかなお守り』など、いくつか作品を拝見いたしました。
    特に、『霊験あらたかなお守り』はそれまでの作品とは、語り口が違い、まさに小説になっていましたので、大変読み応えがありました。
    心理描写がくどくなく、読者を作品のなかに没入させる力のある作品でした。

    今後も楽しみにしております。

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