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かくして僕の現実は彼女たちの現実に反定立された。⑦:純粋

投稿日時  : 2017/10/28 21:17

最新編集日時: 2017/10/29 11:42

闇から解放された。
ほのかに香る甘いにおいと鉄のにおい。
時折聞こえる鈴の音。
 

ドアを開けた警官は室内にいる僕たちを見て、動きを止めた。
「ああ、ああ……」
警官はブルブル震えて、僕たちを指さした。
いや、僕たちではなく、清香を見開いた目でとらえていた。

そして僕は全てを理解した。
清香がなぜ手錠を持っていたのか、なぜ警察を呼ぶとき、人を指定したのか、その全てが分かった。
僕が見上げた先にいた警官の鼻の上には、大きなホクロが鎮座していたのである。

「き、きよか……どうして」
血にまみれたままの刃物を持つ清香に、動揺する警官。
「お父さん、痛かったよ」
それに笑いながら答える清香。

ずっと勘違いをしていた。
清香のそれは、愛情表現だと。
確かに、それは含まれている。
けれど、正確な表現じゃない。
僕の目の前に広がっていたのは間違いなく愛憎だった。
清香は愛と憎しみを同時に表現した。
これが、この混沌たる現実が、僕の産み落とした清香の望んだ理想だったのだ。

「これで、家族みんなそろったね」
そう言って彼女は笑った。

いや……、彼女たちは笑った。

僕の眼前に佇む少女は一人であるはずだった。
しかし、そこにあった現実は、僕の思っていた現実とは全く異なる様相を呈していた。

誘拐されたあの時、どうして少女の声は後ろや右や左など、いちいち違う方向から聞こえていたのか。
美倉清香が犯人だったはずなのに、どうして犯人の口から「靴を履いたまま上がるのはマナー違反です」なんて大河原さんの言葉が出てきたのか。
どうして鈴の音が聞こえたのか。どうして血のにおいに混じって、甘い香りが漂っていたのか。
どうして異常なまでに足音を立てないようにしていたのか。
どうして一瞬で両手両足に手錠をかけられたのか。

少女が去る時、どうしてドアが、不自然にゆっくりと閉まったのか。

全ての矛盾が、矛盾を抱えたまま、答えとなって繋がった。

僕の眼前には、確かに三人の少女が佇んでいた。
姉妹のように仲の良い、あの三人が立っていたのだ。

そうか、そういうことか。
誰か一人が犯人だったわけではなかったのだ……。

そんな無遠慮な、無配慮な事実に僕の理性的で知性的で、浮き沈みのないはずだった心は激しく乱れ、
支離滅裂な感情が僕という人格を飲み込み、野性的な何かがものすごい勢いで外に飛び出した。

「%&()‘&%じ@ゅ%$ん$“”!す$“い%(=(人))&格%%W”&!」

なんと言ったか憶えていない。それは言葉だったかもしれないし、音だったかもしれないし、叫びだったかもしれない。

刹那、何者かであるはずの僕が、清香たちのせいで、清香たちのおかげで、何者でもない僕になった……。
純粋な人間に戻ったのだ。
 

かくして僕の現実は彼女の――いや彼女たちの――現実に反定立された。

(完)

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気持ち悪い話で申し訳ありません。ただ、気持ち悪い話が好きなので、今後もこういった話を更新していく予定です。よろしくお願いいたします。

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