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フィクションランド

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かくして僕の現実は彼女の現実に反定立された。⑤:犯人?

投稿日時  : 2017/10/28 21:16

最新編集日時: 2017/10/28 21:16

   壱

スマートフォンが起動した。
この現象が見られたということは、時刻はすでに夜の十時を回っているということだ。
僕は相変わらず、トイレに籠ったままであった。

バタン。
大きな音が部屋中に響いた。
どうやら、スマートフォンから出た音らしい。少女の家で何かが起こったのだろうか? 
その破裂音を皮切りに、花火大会のフィナーレのように何度も何度も、どぎつい音が鳴った。

「清香! 夜中に家を出てたんだってな! どうしてだ! え? どうして私の理想になれない!」
清香……そう叫ぶ男の怒号。
少女の名前であることは確かだけれど、残念なことに下の名前までは良く知らない。
虐待。
父親が、娘を殴りつけている。
映像が見えるわけではないけれど、音や強い口調が何よりもの証拠だ。
「なんとか言ったら、どうなんだ!」
「お母さんを見つけました……」

少女の声だ。
「何?」
「お母さんがいたんです」
「ふ、ふざけるな! あのクソ女のどこがいいんだ! お前にはもう私しかいないんだよ!」
「そのお母さんではありません……。い、痛いです」
べりべり、と不穏な音が漏れた。
その瞬間、泣きじゃくる少女の叫びがスマートフォンのマイク機能を壊さんばかりに響き渡った。
髪の毛が切られたのだろう。今のはそういう音だ。
「待て! どこへ行く!」
 
   弐 

数十分の時が過ぎた。
先ほどの緊迫した状況を耳にしていながら、僕は催していた。
トイレにいたので、そのまま立ち上がり用を足す。
すると、奥の階段から落ち着きのない小さな足音が聞こえた。
少女かもしれない。そう思い、早々に便器との用事を終え、パンツを履き、ズボンを上げようとしていた。
その瞬間、トイレは開かれ、少女が僕の脚に飛びついた。

まずい……。
パンツは履いている。けれど、僕には唯一見られたくない場所があった。
それは腿の裏にできた青い斑点。
少女はそれを見て、一言。

「やっぱり、お母さんも一緒だったんだね」
「僕は君のお母さんではないよ」
「お母さんだよ。だって、あなたが私を目覚めさせてくれたのだから。それに、プレゼントちゃんと使っててくれた。上辺だけのありがとうじゃなかった、だからお母さんなの」
 
ああ、そうか……。
僕はなんて、愚かな探偵だったのだろう。歴代の名探偵たちに後ろ指を指されてもおかしくない。
僕のポケットには落としたはずのそれが入っていたではないか。
それに鉄のにおい。
今、分かった。このにおいは僕のものじゃない。
少女のものだ。少女が誰なのかを物語る証明書だったのだ。

「そうか君は……美倉さんなんだね」
僕の脚に抱きついた美倉さんは、青い斑点の上に半透明な水分を絶え間なく流し続けていた。

僅かに鈴の音が、響いていたような気がした。

(つづく)

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