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かくして僕の現実は彼女の現実に反定立された。④:容疑者

投稿日時  : 2017/10/28 21:15

最新編集日時: 2017/10/28 21:15

誘拐し監禁するくらいだ。
僕の知り合いである可能性は高い。
しかし、僕は極めて人間関係に疎い。
友達などと呼べる相手は一人いない。
そんな出来損ないの僕が小学生の少女と交流を持つ場があるとすれば、それは一つに限られる。

個別指導塾。

大学に入ってから始めたアルバイトである。
週に十コマ、六名の生徒を担当している。そのうちの三人は男子である。
ゆえに、犯人は残りの三人ではないかと推測できる。
事務的な付き合いだけと決めているので、フルネームは分からないけれど、女子は三人とも、中学受験を控えた小学生。
美倉さん、竹内さん、大河原さん。姉妹のように仲良しの三人。
さて、ではここ数日で整理した彼女らのプロファイリングを披露する。

容疑者その一、美倉さん。
この子は絵にかいたように活発な女の子だ。
いつだって、元気に、鬱陶しいくらいの明るさで挨拶をする。
授業中も雑談が好きで、よく関係ない話を振ってくる。
こないだ友達に彼氏ができた、こないだ友達と遊園地に行ってきた……等々の他愛のない話である。
僕はいつも「君たちは彼氏などと言うものを作って、何をしようというんだい? それが共同体における地位の向上に繋がるのかい?」と真面目に真顔で答えている。
そういう返答しか思いつかないのだ。

美倉さんの肌は常に浅黒く、活発な少女であることは見ればはっきりわかる。
鼻の頭にはチャームポイントのホクロがある。「お父さんとお揃いなの!」とよく自慢している。
お世話になった人には決まって誕生日プレゼントを用意しており、僕のボールペンも美倉さんからいただいた代物だ。
律儀な子である。社会が求める理想的な少女と言えるだろう。

容疑者その二、竹内さん。
普通という概念の具現化とでも言えば良いだろうか。
竹内さんにはあまり個性がない。いや個性がないという個性ならあるが……。
要するに、これといった特徴のない子である。運動、勉強、容姿、すべてにおいて平均値をキープしている。
別段、暗いわけでもなく、明るいわけでもない。雑談もするし、勉強に集中する姿も見られる。
少し変わっているのは、いつもポケットに鈴をつけていていることぐらいだ。

唯一の悩みは、父親が厳しいことだ。
夜ごとくり返される罵声の嵐をどうにか鎮めたいと、僕も何度か相談を受けたことがある。
そんな時僕は、「それは愛情の発露なのかもしれないよ。君のことをどうでもいいと思っていたら、叱るという行為自体しないんじゃないだろうか」なんて、無責任な言葉をただただ垂れ流している。
竹内さんはそれに対して、「うーん、良く分かんないけど、分かった!」と満面の笑みで応えてくれる。
まさに、良い子の典型例といえる女の子だろう。

容疑者その三、大河原さん。
極端な子である。
普段は非常に人見知りが激しく、小さな声でしか話さない。
こちらが質問したこと以上のことは喋らず、必要最低限の言語活動に終始している。
ある意味、僕に近い存在かもしれない。
甘い香りを纏っているのが特徴だ。
妙に几帳面なところも特徴のひとつと言える。
鉛筆の置く場所、消しゴムの位置はいつも同じでないと気が済まない。
それだけじゃない。
挨拶といったマナーにも敏感だ。
一度、僕が挨拶を忘れた時、「挨拶をしないのはマナー違反です。先生」と注意された。
恥ずかしい話である。

こんな大河原さんだが、ときどき、とても上機嫌になることがある。
その時は人が変わったように笑みを浮かべ、いつもの三倍くらいの音量で発声する。
一度、真顔で「どうして人は生まれるんですか?」と聞かれたことがある。
この時期の少年少女にはよくある質問に思えるけれど、「どうして人は死ぬんですか?」ではなく「どうして生まれるのか」に注目しているあたり、かなり変わっている。
僕はこの問いに対して「すまない。僕には解答らしい解答がない。そればかりはひとり一人が自らの脳と心で考えなくてはいけないと僕は思う」と曖昧な回答をしている。
それを聞いて、大河原さんはいつも俯く。残念そうな顔をする。
僕は大河原さんの期待には応えられないのだ。
僕にできるのは解答ではなく、回答だけなのだ。

以上、分析終了。
これらの情報から判断するに、僕は大河原さんが犯人であると考えている。
最も感情の起伏が激しく、最も何を考えているのか計りかねる存在だからだ。
こういう事件を起こす少年少女の特徴は、大人しい性格だ。
けれど、それは大人しく見えているだけであって、中身は正反対であることがよくある。
今回もそのケースなのではないかと踏んでいる。
それに、一番の決め手は几帳面な性格だ。
僕が部屋に土足で上がろとした時、少女は「靴を履いたまま上がるのはマナー違反です」と言った。
これは、まさに大河原さんのセリフだ。

「うん……、まぁまぁの推理だ」
アイマスクをつけられ、手錠を嵌められた大学生が得意げに、そう呟いた。

部屋にはまだ鉄のにおいが残っていた。

(つづく)

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