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フィクションランド

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かくして僕の現実は彼女の現実に反定立された。③:少女誘拐

投稿日時  : 2017/10/28 21:15

最新編集日時: 2017/10/28 21:15

   壱

部屋に踏み込んでも、少女は足音ひとつ立てずに僕の後ろをついてくる。
「そこに座ってください」
ひんやりしたフローリングの上に腰を下ろす。
カチャ……。
何の音だろう? と疑問に思った。だが、時すでに遅し、僕の手には冷たい輪っかが嵌められていた。

「これ……」
「手錠です。おもちゃではありません。簡単には外れないはずです」

いったい、どうして少女が手錠なんて厄介な小道具を持っているのか? 
疑問点が多すぎて、相変わらず思考が彷徨い続けている。
僕の腕は背中に回され、そのまま手錠がかけられている。
これで身動きがとれなくなった。

あれ?
脚を動かそうとしたところ、脚にも手錠がかけられていることに気付いた。
なんて早い動きなのだ。
一瞬にして腕と脚、両方の動きが封じられてしまった。

「スマートフォンを充電させてください」
少女は悠長にスマートフォンを取り出し、コンセントにつないだ。
充電開始の音が部屋にこだまする。

「何かご質問はありますか?」
という支離滅裂な質問をする少女である。
質問などいくらでもある。
百以上はある。
けれど、どうもあまり答えてくれそうにはないので、厳選することにした。
ひとつだけ、どうしても尋ねておかなければならない事柄があったのだ。
「君は人間なのか?」

「……」
沈黙。

少女はここにくるまで、一度も足音を立てていない。わずかに聞こえたような気もするが……。
そして、この奇行に虚言。
幽霊や妖怪の類なのではないか、
人間以外の何かではないか、
そう疑うのも自然だろう。
足がない幽霊なら、足音を立てずに移動することだってできる。

「ふふふ」
笑った。

「やはり、あなたは私のお母さんです」

「え?」
お母さん? 僕は男だぞ……。お父さんならまだ頷けるが、お母さん……。
「また明日伺います。アイマスクを外さないでください。外した場合、心臓を貫きます」
言葉がでなかった。何かを口走るべきだったのに、口がいつもの何倍も重く、開いてくれる気配がなかった。

「行ってきます」
そう言って、少女は玄関を出ていった。
出て行く間際、ドアが開いてから閉じるまで、不自然に時間がかかった。

こうして僕は誘拐され、監禁された。しかも事件現場は僕の部屋。
僕の部屋に僕が監禁されてしまったのである。
一人暮らしを始めたばかりの新居が一変し、事件現場と相成ったわけだ。
この誘拐事件に名前をつけるなら、「少女誘拐」となるだろう。
しかしこれは「少女を誘拐した」事件ではなく、「少女が誘拐した」事件であることは言及しておくべき事柄であろう。
少女の立ち去った部屋には、僕の読み漁った古本たちの香りと、ほのかな鉄のにおいが充満していた。
そして、さきほど落としたはずのペンが僕のポケットに戻されていた事実も付け加えておくことにしよう。

   弐

香ばしいごま油と、奇妙な甘い匂い。少女特有のにおいなのか、もしくは香水でもしているから、こんなにおいが漂ってくるのか……。
涎が口の中に満遍なく広がり、食欲に拍車をかける。
「できました」

あの事件から三日が経過した。
僕はまだ手錠もアイマスクも外せておらず、少女に監禁され続けていた。
「口を開いてください」
僕は何をやっているのだろうか。あれから大学の講義にも顔を出すことができず、そういうところに生真面目な僕としては少し後ろめたい気持ちが芽生えつつある。
「熱いですから、気を付けてください」
少女は自分の作ったチャーハンを僕の口へ運ぶ。
口内へ侵入してきたその香ばしい代物は、歯に噛み砕かれ、舌に嘗め回され、あっという間に喉の奥へと消えた。
「どうですか?」
「美味しいけど」
「よかった、ふふ」
笑った。

少女は一通り、片づけを済ませると、
「トイレ行きますか?」
「うん」
「では……」
と言って、例のごとく僕の背中に刃物を向けたまま、トイレへ連れていく。

「それでは、私は学校がありますので」
少女はこんな凶行に及んでおきながら、毎日学校へ通っているらしい。朝と夕方にここに寄り、夜に自宅へ帰る生活を続けているという。
「行ってきます」
少女は出ていった。
この後数時間、少女が帰ってくるまで、僕はトイレから出られない。
いつの間にかドアノブに細工がされていたらしく、中からは開けられないようになっているのだ。
少女の許可がない限り、僕は自分の部屋のトイレの中に閉じ込められ続ける。

ここ数日、少女はここを去るとき、必ずスマートフォンを置いていく。
しかも、それはしばしば、ひとりでに起動するのだ。
おそらく、タイマーを設定しているのだろう。
そして、起動するのは決まって、夜中の十時頃である。
しかも、奇妙なことに、そいつはどこかと繋がっているらしく、通話中なのである。
しかし、相手がこちらに話しかけてきたりはしない。
ただただ、生活音が流れているだけだ。

謎は深まるばかり。

僕は、この犯人が一体誰なのか、推理してみることにした。

(つづく)

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