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フィクションランド

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かくして僕の現実は彼女の現実に反定立された。②:襲撃

投稿日時  : 2017/10/28 21:14

最新編集日時: 2017/10/28 21:14

   壱

どうやら、痛みの場所から判断するに、背中を刃物で切られたらしい。
いったいどこのシリアルキラーの仕業だろうか、そう思って振り向こうと試みた時、背後から小さな囁きが聞こえた。

「こちらを向いたら、もう一度刺します」

冷静で冷徹な声。
その声にはまったく温度がない、抑揚がない。
そして、もう一つ付け加えるとするならば、高いのだ……声が。
聞こえてくる角度、はっきりとしない発語の仕方、そこから推理すると、この声の所有者は子供である。
しかも少女。
少女の忠告を無視して、僕はその奇怪な生き物を見ようと振り向く素振りを見せた。
すると、直後に背中をすぅっと刃物が流れていった。
その軌跡を辿るように痛みが走る。

「言ったはずです、振り向けば刺すと。次は心臓を刺します」
 
これは脅しではない。
おそらく本当に実行されるのだろう。
僕は生に執着してはいないので、ここでこの奇妙な少女に殺されるのもやぶさかではないのだけれど、
この出来事を書き留めたい欲求もまた存在していて、こんな僕でも生に対する愛着くらいは持ち合わせている。
結論、死にたくない。

「そのままじっとしていてください」
 
僕が動かないことを確認して、少女は手ぬぐいのようなもので僕の目を覆った。
先ほどまでの暗闇が嘘だったかのように、本当の闇が広がった。

「立ってください」
 
酷なことを言う。
このまま、走って逃げることは可能だろうか?
いや、それは難しいだろう。何より、背中の傷が痛すぎる。
この傷を背負ったまま走れるほど僕は頑丈にできていない。
それに、少しでも動き出そうものなら、この少女は容赦なく足を切りにかかるだろう。
今は少女の指示に従うことが先決だし最善だ。

「私の指示に従って進んでください」

 
僕は従った。大学生の僕が小学生らしき少女の命令に従った。
少女は背中に包丁を突き付けたまま、ラジコンでも操るように、僕を操作した。
そこで僕はあることに気付いた。
少女は歩いている途中に、何度か声を掛けてきたのだが、
どういうわけか、真後ろから聞こえたり、右のほうから聞こえたり、左のほうから聞こえたり……。
僕の背後を移動しながら、包丁で背中を突いているのだ。
ウキウキしているようにも感じる動きだ。
とはいえ、足音を全く立てない辺りは、妙に冷静沈着。
感情の起伏が激しいのだろうか、情緒が安定していないのだろうか。
不可思議すぎる行動に、困惑せざるを得ない。

   弐

少女と夜のお散歩を開始してから二分弱が経過したころ、僕は何かに躓いた。

「そこに階段があります。上ってください」
手すりを支えにして、上る。
銅板みたいなものを使った頼りない造りの階段らしく、ギイギイと足の下から悲鳴みたいなものが聞こえた。
悲鳴を上げたいのはこちらのほうなのだけれど、まさか階段に先を越されるとは思ってもみなかった。
だがこの音、どこかで聞いたような気もする。
上り切ったところで、少女の刃物が背中をチョンと突く。

「そのまま前に三歩進んでください」

言われた通り、三歩進んだ。ここで二歩下がるみたいな、冗談を思いついたが、やめておくことにした。

「そこのドアを開けてください」
 
ドア?
そうか、ここはアパートか何かなのか……。
手探りでドアノブを見つけ回してみるが、鍵がかかっているらしく、入室許可は下りなかった。
「鍵を開けて下さい」
「……?」
思わず首が斜めに傾く。
「持っていないよ、そんなもの」
「それは嘘です。あなたのポケットの中にあるはずです」
「これでは、ここの鍵は開かないよ」
「いいえ、開きます。その鍵はこの部屋のものですから」
「え?」
「早くしてください」

鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。ぐるりと捻り、開くはずのない鍵の解除された音と感触が伝わってきた。
ドアノブを回す。
開いた。

「入ってください」
靴を脱がずに上がろうとしたところ、
「靴を履いたまま上がるのはマナー違反です」
そんなトンチンカンなことを口走る少女。
現時点で、明らかに法律に抵触していそうな少女から、まさかマナーの指摘がくるとは……。僕は指示通りに、靴を脱いでから上がった。
そのまま奥に進む。

古本の香りが部屋に充満していた。
ああそうか、やっと分かった。

ここは、僕の部屋だ。

(つづく)

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